第2話 神様の悪戯
試合が終わり、1週間の休みを終えてジムに顔を出した弘。顔の腫れはまだ少し残っていた。
「弘!次の試合決まったぞ!お前、かませ犬だから大人気だよな!次々オファーがくんだよ!」
トレーナーが笑いながら言った。こんな嫌みにも何も感じなくなっていた。
でも、今回。
俺は・・・勝つ!動機は不純だけれども。
「相手はな、藤本ジムの前田って奴だ。アマチュアで何戦かしてる選手みたいだ。」
え!ふ、藤本ジム!美里さんのお父さんのジム!なんという偶然!神様、イタズラにしては冗談がキツイんじゃないですか?
弘は複雑な思いだった・・・
相手の名前は前田一郎。
アマチュアで負けなしの8勝でその全てがKO勝ち。期待されていた選手だったけれど、暴力事件を起こしアマチュアボクシング界に見切りをつけプロ転向したらしい。
「なんかむこうのジムの会長が相当肩入れしてる選手らしいぞ。100年に一人の逸材だってな。ま、叩き台としてお前に白羽の矢が刺さったってわけだ。」
思えば連敗のほとんどの選手は期待されている選手ばかりだった。弘は変に2勝(2KO)しているので相手の箔付けにちょうどおあつらえ向きらしい。
「ま、ダメージがないうちに早めに寝ろよ。」
トレーナーは弘が負ける事を前提に思っている。
今回は違うんだ・・・動機は不純だけれども。
◇
早速、美里さんに電話した弘。しばらく絶句した後、美里さんは言った。
「・・・え、ウソでしょ?パパのジムって・・・弘さん、相手の選手前田一郎って言った?」
「はい、確かに前田一郎って言ってました。美里さんのお父さんが相当、期待している選手だって。」
しばらく沈黙の時間が流れた。
「弘さん・・別に隠していたわけじゃなかったんだけど、私、彼氏がいるのね。といっても、まだ2回しかデートしてないから本格的に付き合っているってわけじゃないんだけれど・・・」
あ、そうなんだ・・・
弘は少し落胆した。
「でね、それが前田一郎なの。パパが、こいつは将来、絶対世界に行く男だからって付き合え付き合えってうるさいから2回デートしただけなんだけどね。ちょっと乱暴なところがあるから嫌いなのよね。」
な、な、なんという神様の悪戯!美里さんの話によると、ジム内でも後輩などに偉そうにしている姿をよく見るらしい。
「・・・そうなんですか。」
「でも、今度の試合。絶っっ対、弘さんのこと応援する!パパや一郎には内緒だけどね!だって約束したもん!弘さんの勝利の女神になるって!」
やっぱり弘は複雑な思いだった・・・
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