第五話 席替え
氷樹が教室に入ると半分くらいの生徒が来ていた。やはりまだしゃべっている生徒は少なく、大抵は席に着いてスマートフォンなどをいじっていた。入学当初の独特な緊張感が教室に漂っている。
氷樹は翠妃が教室に入ってくるのを見た。確かに外見はかえでのようにお嬢様のような雰囲気があった。少し長い髪に眼鏡をかけているせいか、一見落ち着いていて本が好きそうな女の子のイメージで、どちらかというと理数系というより文系な気がした。
ホームルームが始まる時間になると担任がやってきて、まずは席替えをすることになった。
「席替えだが、どうやって決めるか迷った。くじにしても良かったんだが、それだと女子が少ないからばらばらでかわいそうだろ。だから女子班ってのを作ることにした。六人を一つの班にして、班をブロック分けした。女子の班はこちらのくじで引いて、どのブロックになるか決まる。班内での席の位置は自由に決めていい。それが決まったら残る席で男子のくじ引きな」
担任はくじの入った箱を掲げて言った。
「じゃあ女子の方は誰が引くか……天女目、お前出席番号1番だから引くか」
すると翠妃は慌てた様子で、
「えっ? あっ……でも――」
「はいどうぞ」
「あ――はい」
戸惑う翠妃に担任が紙の棒のくじを差し出すと、翠妃はおどおどしながらくじを選んだ。そして担任がくじを確認する。
「おっ、8番か。ということはここだな」
担任が黒板に書いてある座席表の一部を囲った。窓側の後ろの方だった。
「じゃ、残る男子、順番にくじまわしていくからな。その間女子は集まって席を決めてくれ」
担任はくじの入った箱を持って男子たちの席をまわった。一方女子たちは翠妃の席に集まって席を決めることにした。
「天女目さん、くじ運いいね。窓側になりたいなーって思ってたの」
「よ、喜んでもらえて……」
翠妃は恐縮しながら言った。
「席はどうやって決めよっか?」
「ジャンケンでいいんじゃない?」
「そうね。牧田さんには悪いけど残った席で」
まだ牧田恵花という生徒は登校していなかったが、みんなその提案に賛成だった。男子がくじを引いている間に、女子たちはお互いに打ち解け始めていた。
「『天女目』、って珍しい苗字だよね」
「私も思ってた。名前の方もだけど……なんて読むのかわかんなかった」
「そ、そうですよね……いつも人に訊かれます……」
「でもさ、素敵な名前じゃない? 天女目、って何か珍しくてかっこいいし、名前もすごく素敵」
「うん、私もとても素敵な名前だと思う。
かえでが手のひらに文字を書きながら言った。
「はい――だから名前負けしてるって思ってます」
翠妃は少し落ち込んで言った。
「そんなことないって! 天女目さん、なんだか落ち着いた大人って雰囲気あるし」
「そ、そうですか? でも私、見かけ倒しみたいなものですから……落ち着きないですし」
翠妃は改めて落ち込み気味に言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます