雨の唄

 僕が彼女のことを想うとき、彼女も僕のことを想っている気がするが、それは勘違いかもしれない。僕らの間にある距離は、銀河を何個も並べるくらいに遠い。僕はその途方もなさに頭がくらくらする。僕らはどこへも行かない。僕らはどこへも行けない。

 古い街が何故か昔から好きで、僕は落ち込むと古ぼけた街に行く。そこで特に何をするわけでもない。ただぶらぶらする。ただのんびりと歩く。道ばたに咲いている花や、空を飛んでいる鳥を眺める。塀の上で欠伸をする猫、蜜を集めるのに必死な蜜蜂、近づいても逃げない鳩、雨の予感を察し出てきた蝸牛。

 僕はゆっくり歩く。世間は物凄いスピードで僕を追い越していく。僕の前には色んな人の背中が見える。僕は振り返ってみる。最後列は僕みたいだ。

 僕はゆっくり歩く。むしろ歩くスピードを落としていく。大事なものを見落としてしまわないように、少しずつスピードを緩める。雲から顔を出した太陽、遠くに見える鱗雲。

 降り出す雨。僕は傘をささない。雨に打たれる。体が冷えていく。僕はその感覚の一つ一つを丁寧に捉えていく。雨、雨、雨。その一粒一粒を肌で感じようとする。雨、雨、雨。

 もっと降れ降れ。

 僕はやはり彼女のことを想う。僕が彼女のことをどのくらい好きなのか、ということを考える。

 本当は考える必要なんてない。答えはすでに出ている。

 雨、雨、雨。

 もっと降れ降れ。


 僕は彼女を愛している。

 彼女は僕を愛しているか?


 雨よ、頼むからもっと降ってくれ。


 雨、雨、雨。


 もっと降れ降れ。

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