第3話 - 友を呼ぶ店 -
カタカタカタッ
カタッカタッ……
ジジッ……
ピィーヒョロロロロー
カピッカピッカカカッ
ジィー……
「ん?
おーッ?!
あ、やったー!
繋がったぞッマー君!!」
「お、おぉぅー!?
画面出たなっ
もうインターネットが繋がったのか、
哲矢?」
「そうさ、これでネットデビュー出来たな!おめでとうー」
パソコンを組み始め、パソコンの初期設定やらプロバイダの個人情報やら接続設定をやり出してから陽も暮れてもう5時間が経とうとしていた頃、ようやく念願のインターネットに接続できたのだった。
今、日本のこの小さな田舎町のボクの部屋から、行ったこともない全世界へ回線が繋がっていると思うと感動しかない。
話そうと思えば、国際電話でも出来るけど、そうじゃない。この画面モニターから伝わる何かを感じる、ボクのこの指先一つで世界を何でも操れそうな魂の喜びだ。
WWW =ワールドワイドウェブ
この言葉は、これから何か起こりそうな大きな可能性がある意味と響きに思て仕方なかった。
「おい哲矢、これから何をすればいいんだ?」
「そうだなぁ……
何か探したいものがあれば、そのキーワードを打ち込めば表示されて閲覧できる事は出来るかな?」
「電話帳?辞書かな?百科事典か?」
「まぁそんなところかな、
電子的な図書館ライク!だな」
「ほぅー、なるへそ」
「おっと、もうこんな時間かぁ
無事にネット環境が整ったところでHIROんち店行って飯でも喰うか?」
「あーそうだな!
飯おごる約束だったなー哲矢先生」
「あぁーソレソレ、よろしくな!」
ボクは、早々にパソコンを終了させ念のために電源コードも抜き、先生でサポート役の哲矢を自分の車に乗せ、家からそれほど遠くない友人であるHIROの店に、今日のインターネット開通記念の祝杯をあげに向かった。
HIROの店は、ボクん家から5分もかからない場所に在る。経営者は他に居る、謂わば雇われコックなのだ。
お店自体は、洋風居酒屋という名目の呑み屋だ。
週末の盛況ぶりは駅から近くて利用者が行きやすいから、サラリーマンやOLが挙って足を運んでいる。子連れの家族も食事だけしに来ている姿もよく見かける。
繁華街のある駅南の逆側、ロータリーしかない駅北の近くに店を構えている。ラッシュ時間を過ぎれば人通りも多くなく、車も周りの住人が通るくらいのほぼ住宅地の一角にある。
ボクとHIROは幼馴染だ、しかもだいぶ古い旧友でお互いの家にはよく遊びに行っていた仲だった。小学高学年まで同じクラスだったけど、ボクが親の都合で引越して転校してから成人になるまで音沙汰が無かった。
それもそうだ、町を転々としていたボクだったからHIROの地元なんて行きっこないし、同窓会なんていうきっかけも無かったからな。こうして幼少時代の同窓会と、旧友との宴は毎週末開催してる。なんだかんだで祝いの酒だ!と無理矢理良いことに結びつけて集まって騒ぎたいだけかもしれないが、こんな交友や繋がりが無かったらボクは出歩いて呑み歩いたりする性格ではなかったからな。
ほんとは面倒臭い、だけど楽しいし毎回何か刺激や影響や勉強させて頂いている良い機会と思えばこの毎週行事は止められなくなっている。
見ず知らずの常連客とも仲良くなるなんて数年前では考えられなかったからな。
ガチッ
ギィーー
カランッコロンッカラン……
ガタンッ!
「いらっしゃーい」
「よっ!」「こんばんわー」
「今日は2人揃ったねー
さぁどうぞー」
この店はとても古くてどこか懐かしい雰囲気と匂いがする、幼少期によく親に連れて行かれたデパート最上階の食堂みたいな所だ。
お店は1階、2階は事務所、3階はオーナーの住居となっている3階建てのこじんまりした雑居ビルの様な造りだ。
店内は20坪はあろうか?カウンター席、テーブル席、奥には団体用のホール席がある。
店員は、HIROを含めて常時3人は居る
週末や時間帯ではホール係のアルバイトの女の子が増えるくらい。オーナーは稀にしか店に出て来ない、お子さんが手の掛かる年齢のお母さんだからだ。先代の親父さんが創立者で、数年前に他界してから後継のオーナーとなった。生活、子育て、店舗オーナーと多忙な女社長。他にも老舗の寿司屋や喫茶店も経営している、お見事だ。
気さくで気前が良く、容姿も良いのでオーナー目当てに来る客人も少なくない……
そういうお店じゃないっちゅうのお殿方?
それもそのはずだけどね、
オーナーはバツイチなんだよな。
「やれやれーよいっしょ……
んー、取り敢えずビール!」
「はいよー
マー君は何呑む?」
「ボクは運転だからなー
烏龍茶でいいや、
それより軽く先につまみたいかな?」
「はいね、じゃあー
烏龍茶の御通しにポテサラをーはい!」
「HIROぉー何でも良いから、
すぐ出来る軽食頼むよ、もう腹ペコだわ」
「はいよー
直ぐ食べたいのかぁー
パスタで良ければ、少々お待ちを……」
「じゃ今日のサポート代はパスタだな
哲矢?はははー」
「何でもいい!早くくれぇー」
「はいはーい」
オーダーのパスタも届き、食べに入るボクたち。その間に他の客人も次々と来店し混み始めてきた。この店は基本ドイツ料理、ヨーロッパの酒類だけど別メニューでオーナー経営の寿司屋からもオーダー出来る、素晴らしい!海外からの訪日者もこのお店なら満足だろうな。
「ふぅーッ食った食ったぁー
取り敢えず飢え死には免れたー」
「大袈裟だなー哲矢
そんなにパソコン設定で体力消耗したのか?」
「いやぁーMacとはえらい違いだったぞー
とても面倒臭かったなぁー」
「そうだったんだぁー
なんか不安だなーボクにこれから出来るのかな?」
「セッティングした後は問題無し!
でも、電源落とす時は必ず終了項目を実行だ!」
「うん、わかった」
「それと、落雷しそうな時は起動しない!
プラグコードは抜いておくのは常識だぞ?」
「イエッサー!」
※右手を敬礼ジェスチャーで
「なになにぃー
マー君パソコン始めたのか?」
「うん、今日がデビューの日だよ」
「先生役のサポートしたのはわたくしです!
次、豆腐ステーキ頼むよHIRO」
「へぇースゲェーなーマー君!
オレもやりたいんだが難しそうだよなー
はいよ、カウンター①番へオーダー!
豆腐ステーキ入りまーす……
ってかさぁ?うちの事務所にもパソコン入れたけど、オーナーは機械音痴だろ?
月に何度か会計士が来てカタカタやってるだけで、この店でパソコン使える人間が居ないのさぁー、だからね?」
「あーそうだったんだ、一年待ってくれたらHIROっち店に就職するよ、調理無理だけど……」
「それ、調理が先だろ?」
「じゃあ三年必要だな?調理専門学校通いでな」
「また学生かよーもういいよー」
『アーハハハッ』※カウンター付近一同
と、そこへ……
「いいじゃない、ココに居る皆んな調理師になれば、HIROが風邪で休んでも代わりには困らなくなるわーお店も休まずに済むし!」
2階の事務所からオーナーが降りてきた、
少し挙動不審になるHIRO……
「あッ
おはようございまーす、ゆー子さん!」
「おはよー
いつもカウンターへ座るお客は、
大人しい人間ばかりだから、
ひょっとしてーと思ってさ!
マー君哲っちゃん、いらっしゃーい」
「ゆー子さん、こんばんわー」
「ごめんねー今日これからお客さんの誘いで会食しに行かなくちゃならないのよーだから帰りは何時になるかわからないの…… 」
「いいですよ、ゆー子さん
今日はぼくが店閉めますんで、
どうぞごゆっくり行ってらっしゃい」
「悪いわねー
いつもなら店閉めた後、
みんなでワイワイカラオケ屋巡りやるのにぃ、じゃぁ頼んだわねッ」
「はい、行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃーい、
お気を付けてぇー」
「またねぇー、ゆー子さーん!」
いつもの週末、いつものボクたち、
いつもの時間、いつもの宴……
何でもない時間が流れている、
今日も同じこのお店で。
バラバラになって居た一つのピースたちが、この店のジグソーパズルの額に埋まりに来る様に、一つでも欠けたらきっと同じ楽しい時間と空気はここには表れないだろうな。誰にも言われないけれど必ず来るボクの居場所の一つになっている。
理由なんて何でも良い……
ココにいつもの必要な人さえ居てくれたら、それだけで良い。
そうずうっと思って願っても居るけど、
時の悪戯はそうはさせてくれないこれからの出来事が待っているのは誰にもわからなかったのである……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます