第147話 べたべた

~ コボルト村 洞窟前広場 ~


「シ、シンイチさま……は、恥ずかしいです……」


 久々にコボルト村に戻った俺とライラは、遅めの昼食を洞窟前広場に設置されているテーブル席で取っていた。


 このテーブルは、俺とライラとステファンが始めてお酒を呑みかわした懐かしい思い出のある場所でもある。


 俺は、イリアくんの経営する宿屋で作られたイリアズホットドックを、ライラの口元へ運ぶ。このイリアくんのホットドックは、黒くて物凄く太いソーセージが挟まっていて、とても美味しいと評判だ。


 俺は恥ずかしがるライラを無視して、ホットドックからはみ出ている黒くて物凄く太いソーセージをライラの下唇に当てる。


「はい。ライラ、あ~ん!」


 と、俺がライラに黒くて物凄く太いソーセージを食べるように促すと、


「はい。ライラ、あ~ん!」

「ハイ! ライラアーン!」

「はい。ライラ、あ~ん!」

「ハイ! ライラアーン!」

「はい。ライラ、あ~ん!」

 

 俺たちの周りでコボルトの子供たちが、一緒になってライラにホットドックを食べるよう急かす。


「で……でも……」


 俺の膝の上に座っているライラが、恥ずかしそうに身をモジモジさせる。俺の方が身長が低いので、恐らく第三者視点で見れば、ちょっと滑稽に見えてしまうかもしれない。


 だが、太ももでライラのお尻をしっかりと感じ取れて、しかも目の高さにライラのパイがあり、手を僅かに動かすだけでライラの美しい脚線美をなぞることができるこの姿勢は、


 至高である。


 もし二人っきりだったら、間違いなく瞬間発情してたな。


「はい。ライラ、あ~ん!」


 というか、ライラの唇に黒くて物凄く太いソーセージを押し付け、それを脳内録画しようとしている時点で、もしかすると、あくまでも、もしかするとだが、俺は既に発情しているのかもしれん。


 くっ!


 コボルトの子供たちがいなければ、目の前のライラズおっぱいに顔を埋めたいところだが……。


「「はい。ライラ、あ~ん!」」

「「ハイ! ライラアーン!」」


 ここは子供たちの期待を満たすことが先決だ。もし、ここで彼らを追い払おうとしようものなら、却って好奇心を刺激してしまい、ますます俺たちに纏わりついてくることだろう。


 それだけではない、彼らには仲間を呼ぶスキルを使って、村中の子供に招集を掛けてくるかもしれない。


 ここは素直に子供と同調しておくしか選択肢がない。


 俺にとって、やっかいさに掛けては魔物よりも妖異より、遥か上を行っているのが彼らなのである。


 パクッ。


 ライラが、黒くて物凄く太いソーセージを三分の一ほど大胆に齧った。


「わーい! ライラが食べたー!」

「ライラがソーセージ食べたー!」

「シンイチのソーセージ食べたー!」

「シンイチのソーセージが小さくなったー!」

「シンイチのソーセージが短くなったー!」


「おぃぃぃぃ!」


 俺が声を上げると、子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 そこからワーキャー騒いで俺たちを揶揄っていたが、すぐに次の楽しみを見つけたらしく、みんなして森の方に走り去っていった。


「はい。シンイチさま、どうぞ……」


 イリアズホットドックを食べ終えたライラは、今度はお返しとばかりに、俺の口元に次のイリアズホットドックを運んでくる。


「あーん! パクッ!」


 俺は大口を開いて、一口で半分近く食べた。


「どうですか?」


 楽しそうな声でライラが俺に尋ねる。


「もぐもぐ……もの凄く……太い……です」


 俺は本当はライラに言わせたかった感想を口にした。




~ べたべた ~


 ここ数日、俺はライラに纏わりついてベタベタしている。


 一応、ライラが困ってたり嫌がってるようなときは、距離を取るようにはしている。だけど、それは俺の判断でしかないので、ライラが嫌がっているタイミングはもっとあるかもしれない。


 どれくらいべたべたしたか振り返ってみる。


 コボルト村内を移動するときは、指を絡めた恋人つなぎで手をつないでいるか、ライラの腰に手を廻しているか、お姫様抱っこのいずれかだ。


 ちなみにライラの腰に手を回した場合、時折、手が下がってナデナデしてしまうのは、仕方ない。仕方がないんだ。


 食事は必ずライラを膝の上に乗せて取っている。もし俺なら、ご飯とみそ汁からなる和食を、他人の膝の上に座って食べることなんてとてもできない。


 だがライラは体幹をしっかりと安定させて、俺の膝の上で箸を使って、焼魚の骨を丁寧に取り除いて、俺の口に運んでくれる。


 お互い仕事で離れる必要があるときは、必ずライラを抱き寄せて五点接吻を敢行する。五点接吻とは、ライラの全身の五箇所にキスをすることだが、場所は毎回ランダムだ。


 二人っきりのときは、言葉責めで徹底攻勢を仕掛ける。前世で、悪役令嬢モノのアニメやマンガで見たことがある、貴族青年たちの歯の浮くようなセリフをライラの耳元で囁く。


 もしタクスにでも聞かれたら、もう死ぬしかないくらい、恥ずかしいことを口にしているのだが、ライラになら、それでも平気で言えた。


 どうしてこんなことをしているのか。


 それは先日、俺が目を覚ましたとき、隣でライラが泣いていたからだ。


 ライラは嫌な夢を見たからだと言っていた。


 俺だって悪夢を見て飛び起きたり、哀しい夢を見て涙することもある。


 なので、それだけのことと言えば、そうかもしれない。


 だが、その時の俺はそうは思わなかった。


 ライラは、これまで俺には想像もつかないような地獄を見て来ている。


 俺と一緒になってからも、ライラには辛い思いをさせてしまった。


 ライラに何をしてあげられるのかわからない。


 どうすればライラが癒されるのかわからない。


 俺に出来ることは、ただライラにずっと傍にいて欲しいという思いを伝えることだけしかない。


 俺の全力でそれを伝えるしかない。


 その伝え方がわからない。


 ので、


 俺は可能な限りライラに触れ、ライラに口づけし、ライラに好きだと言葉で伝え続けた。


 数日後、


「シンイチさま、もう大丈夫ですから……」


 もういい加減にしてくれということなのか、それとも何かが大丈夫になったのかわからないが、その言葉を聞いたとき、俺のベタベタは終了した。


 夜の方はそのままだけどな!

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