第133話 幼女強制収容所 Side:レオン・グラント

 星の智慧派から派遣された三人のアサシンたちと共に、ミチノエキ村に派遣されたレオン・グラントの仕事は、一人の女を連れ帰るだけの簡単なお仕事……のはずだった。


 女の情報は、ミチノエキ村に着いたその日のうちに入手することができた。目に傷のある美少女というだけで、村人たちはそれがライラ・タヌァカであるとあっさり教えてくれた。


 ライラという女の行動を監視するのも、難しいことは一切なかった。彼女が村を歩けば、すれ違う多くの村人たちが挨拶をする。


 そんな状況なので、ライラに堂々と視線を向けても、怪しむ者はいなかった。


 アサシンたちは身を隠してライラを観察しているのだろうが、レオンはパン屋や飲み屋のテラスに腰かけて、堂々とライラの動向を観察していた。


 ライラと一緒に見かけることが多い少年については、レオンは大した脅威ではないと判断した。持っている武器や服装、歩き方や所作などを観察する限り、そこそこの冒険者であるには違いない。

 

 だが第二級冒険者であるレオンから見れば、その少年の実力は恐らく、ヴァルキリー団の新人研修生よりも劣るだろうと思われた。しかもその少年は、村人から挨拶を受けても、おどおどしたり、へこへこしたりと、とにかく腰が据わっていない。


 灰色ローブたちが、彼の暗殺に手こずることはまずないだろう。そうレオンは判断した。


 だが……この辺りからレオンの記憶が曖昧になる。


 たしか陽が落ち初めて、ライラと少年がミチノエキ村を出て行った。それは覚えている。


 灰色ローブの一人が俺を、二人が野営しているところから少し離れた場所に案内し、そこで見張ることになった。それも覚えている。


 だが、そこから何が起こったのかよくわからない。記憶に靄が掛かったように思い出すことができなかった。


 何か光が目に入ったような気がする。


 そのとき自分の身に何が起こったのか、まったく覚えていない。


 だが、

 

 とにかく、


 次に目が覚めた時は、俺はここにいた。




~ 幼女強制収容所 ~


 広い地下空間一杯に広がる一面の水耕栽培施設。


 レオンが周囲を見渡すと、そこでは多くの幼女たちが、大陸トマトやメジャイピーマンをひとつひとつ丁寧に手でもぎりながら収穫を行なっていた。


 突然、レオンは、自分がどこにいて何をしているのか、全く分からなくなってしまった。


 自分が何者なのかを理解しようと考えているうちに、ボーっと立ち尽くしてしまった。


 レオンのすぐ目の前で作業をしていた幼女が、レオンの手が止まっているのを見て怒鳴り始める。


「おい新入り! さぼるんじゃねーよ! 俺たちの班がビリケツになっちまうだろうが!」


 レオンは、目の前にいる幼女がプンプン怒っているのを見て、思わず笑ってしまった。おっさんが使うような乱暴な言葉を、幼女が使っているのだ。これは面白い。


「てめぇ! 何、ニヤニヤ笑ってんだよ! 舐めてんのか? っぞゴルァ!」


「プーッ! ぶっははははは!」


 レオンはカワイイ幼女の口から出てくる乱暴な言葉に、思わず吹き出してしまった。


「てんめぇぇ!」


 ドンッ!


 幼女のタックルを受け、レオンの身体が地面に倒れる。


(こんな小さな幼女に倒れされるとか、クッソ笑える!)


 ピィィィィィィィイィ!


 喧嘩に気付いた巨乳の女性が、レオンのところにすべってきて幼女を引き剥がす。


「こらぁぁぁぁ! そこ喧嘩しないの!」


 そう言いながら巨乳の女性は、右手にレオン、左手に幼女を掴み上げて、そのまま空中でブラブラと揺らす。


(お姉さん、腕力すげぇ! うちの団に推薦してあげようか? つーか、お姉さん足ないし! 足がヘビだし! ラミアだし! 魔族じゃうちのクランは入団できねぇんだ。ごめんな)


「こいつがいきなり仕事をさぼりやがってよ! 俺が注意したら、ヘラヘラ笑いやがったんだ! 俺は悪くねぇ!」


「幼女がプンプン怒ってるよwww カワイイなぁwww」


「ちょ! 監視さん! こいつ頭がやばいことになってんじゃねーか? さっきから話がまったく通じてねぇよ」


「ぶはっwww 幼女が心配してるwww 俺のこと心配とかwww」


 ラミアが、左手の幼女を降ろして作業に戻るように言うと、幼女はぶつくさと文句を言いながらも元いた場所に戻って行った。


 そして今度は、左手でブラブラと揺れているレオンを目の高さにまで上げて、レオンの目を覗き込む。 


「目の焦点がどこにもあってないわ。このままじゃ正気を失っちゃうかもしれないわね」


(正気!? 正気なんてとっくに失ってるよ! おっぱいの姉ちゃん! もし俺が正気だって言うなら、俺の手がこんなにちっこいわけないだろ! だいたいないんだよ! 俺の息子どこいったんだよ! 返せよ。返せ、俺の息子、返してくれよぉぉ)


 レオン(幼女)の心の負荷がオーバードライブして、彼はついに泣き出してしまった。


「ぐずっ、ぐずっ、ぐすっ、ひっく、ひっくっ、おれのエクスカリバー返してくれよぉぉ」


 ラミアはレオンを抱きかかえると、スルスルスルと栽培工場から出て行った。


ラミアは階段を昇り、ある部屋の前で止まった。


 部屋をノックすると、中からレオンにも見覚えのある男が顔を出す。


「皇帝、囚人32号ですが、作業中にトラブルを起こしまして。どうも精神的に限界に近いようでしたので、判断を仰ぎたく参りました」


「そう。ご苦労様、じゃぁ、今日は医務室で寝かしてあげて。明日、幼女化が解けたら尋問して、その後の状態を見てどうするか考えよう」


 男は、レオンの前に顔を持ってきて、ニッコリと微笑んだ。


「今日はお疲れだったね。もう休んでいいからね? 後でお姉さんにアイス持っていてもらおうね」


 レオンは、男の目を見て尋ねる。


「アイス? みかんのやつ?」


「あぁ、みかんのやつ。それ食べたら、ちゃんと歯を磨いて、ゆっくり眠るんだよ」


 男の手が、レオンの頭を優しく撫でた。 


「うっ、うっ、うっ、うわゎぁあぁん」


 男に撫でられる度に、レオンの胸に安堵と安心がジワッと広がり、レオンはラミアの胸の谷間に顔を埋めて泣きじゃくった。


 いっぱい泣いた後、ラミアが持って来てくれたアイスを食べたレオンは、


 男に言われた通り、ちゃんと歯を磨いて、そして、


 ゆっくりと眠った。

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