第115話 グレイベア村へ戻れ!

 セレーナと別れた後、俺たちに残された仕事は楽しい楽しい王都観光だけだった!


 俺たちはカレンの案内で王都の名所を巡り、色々と美味しいものを食べ歩いて廻った。途中の買い物では、お土産はもちろん、タヌァカ三村に必要そうなものがあればどんどんと買い込んでいった。


 あまりに買い込み過ぎたため、ついには商隊と護衛を雇ってミチノエキ村に荷物を運んでもらう手配までするハメになった。


「それにしても、さすがは王都! 何でもあるし、食べ物も旨い!」


「そうっすかぁ? シンイチさんのすーぱーの食べ物の方が、ずっと旨いと思うんですけどね」


「タクスくんは、あれだね。素材の味が楽しめないお子ちゃま舌だから、王都の料理の味がいまひとつ分からないんだね」


「いやいや、そういうシンイチさんも、料理が出て来た時には、こっそり醤油とか『何でもうまくなるスパイス』とか掛けてるじゃないですか!」


「そ、それは素材の味を引き立てるために仕方なく……」


 俺とタクスのどうでもいい会話に、カレンが突然割って入ってくる。


「ちょっとシンイチ! あの服を買いましょう! 買って!」


 そう言ってカレンは、グイグイと俺の腕を引っ張って、ズカズカと服飾店へと突撃して行った。

 

 買い物についてカレンは俺のツボを心得ている。例えば、服やアクセサリーの購入に当たっては、まずライラを着飾らせて俺の反応を見ることから始める。


「ほらっ! これ王都で流行ってる服よ! 通りで何度か見かけたでしょ!」


 そう言ってカレンは、ライラを鏡の前に立たせた。


「ねっ! これなんかライラにピッタリじゃない! 凄く素敵よね!」

 

 上品で清楚な服をライラに合わせて、カレンが俺の反応を見る。


「おぉ! 確かに! まるで貴族のご令嬢みたいだよ! ライラ!」

 

「そ、そんな……」


 ポッと顔を赤らめるライラ。それを見た俺が、鼻の下を伸ばしたのを確認したカレンの口角がニヤリと上がる。


「じゃ、これに決まりね! 皆の分もいいよね!」


「オッケー牧場!」


「意味わかんないけど、とにかく買っていいのよね!」


 ……とまぁ、服に限らずあらゆるものをこんな感じで、カレンはお買い上げしていった。


「このカワイイ服! ルカちゃんとグレイちゃんに良いんじゃない?」


 そう言って、カレンが可愛い子供服を俺に見せて来た。


「さすがカレン! いい服ばかり選んで来るね! これならルカちゃんたちも喜ぶ……」


 ピキーン!


 その時、俺の頭の中にニュータイプな感じの閃きが走った。


「どうしたのシンイチ?」

「シンイチさま? どうされました?」

「シンイチさん、どうしたっすか?」

 

 突然、動きを止めた俺の顔を、三人が心配そうに覗き込む。


「ルカちゃん……ルカちゃん……何か忘れているような……」


 んーっ、何だろう? 何か忘れているような……。


(ココロチン:確かルカちゃんから早く帰ってくるよう伝言を受けていたのでは?)

(シリル:もう王都に来てから、ひと月以上過ぎてますね)

 

 そうだったぁ! ルカの伝言、すっかり忘れてたぁぁぁ!


「どわぁぁぁぁぁぁ!」


「「「!?」」」

 

 突然、俺が叫び出したので三人が驚いて動きを止めた。


「シ、シンイチさん、どうしたんすか!?」

  

「ルカになるべく早く帰ってこいって言われてたのを、すっかり忘れてた!」


「ええ!? 早く帰らないと何かあるの?」

 

「わからん! でも凄く大事な用事がある気がする! とにかく急いで帰ろう!」


 俺たちはその日のうちに、急ぎ王都を後にした。




~ グレイベア村 ~


 ルカの用事が何かはわからないが、誰かの生死が関わるような大事なものではないはずだ。


 もしそこまでの話なら、ウィンドルフィンが俺に伝えてくれているはずだからだ。


 だがウィンは、セレーナの面接が終わったときに、『王都観光してから帰る』という伝言をルカに届けに行ったきり戻ってきてはいない。


 恐らく俺たちが帰るのを向こうで待っているのだろう。これはウィンが慌てて俺たちのところに伝言を届けなければならないような、そんな事態は起こってないということでもある。


 だが逆に言えば、村全体が危機や問題が発生しているのではなく、ルカが俺個人に対して何か重要な用事がある可能性が高い。


 俺だけがルカに怒られてしまう危険が危ういということである。


「んーっ! やっぱ帰りたくないなぁ」


「今頃何言ってるんすか!? もうすぐグレイベア村ですよ!?」


 そう言って呆れるタクスに、俺は恨みがましい視線を向ける。


 お前はいいよな! お前はルカに怒られないからな!


 俺の中では、もうルカの説教は完全に確定していた。


「それにしても、やたらと木が倒れているよね」


 そろそろグレイベア村が見えてきそうなところで、俺はふと疑問を口にした。


「確かにそうですね。何か大きなものが森の木々を倒しながら走り抜けていったような……」


 ライラも周囲を見回して、俺の言葉に同意する。


「どこからか、でっかい岩でも山から転がって行ったんですかね?」


 ライラやタクスの言う通り、グレイベア村に続く森の木々が数多くなぎ倒されていた。


 まさか……何か大きな災害でも起きたのか?


 俺たちは胸に不安を抱きながら、グレイベア村へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る