第107話 小鉢誕生
前世の日本においては、妊娠から出産までの期間は
というより、そもそもフワデラさんは鬼人族だし、シュモネーは謎種族だし、まぁ、人間の常識なんて当てはめられないのだろう。
シュモネーは妊娠してから三カ月で小鉢を出産した。
母親譲りの銀色の髪は、毛先近くで黄色と赤に変化している。てっきり染めていたのかと思ったが、元々そういう色だったみたいだ。もしかすると、これはシュモネーの種族が持つ特徴なのかもしれない。
こめかみから上の額には、白くて小さな角が二つ生えている。これは鬼人族の特徴だろう。
ちなみに初めて小鉢を紹介してもらったとき、俺は小鉢に指を折られている。
「うわぁ! こりゃ美人さんになるね! というかもう美人さんだね!」
玉のようにカワイイ小鉢の頬をプニプニしていると、小鉢が俺の人差し指をギュッと握ってきた。
「キャッ! キャッ!」
その瞬間、俺は小鉢に身も心もメロメロにされてしまった。
その様子を見ていたフワデラさんとシュモネーが声を上げて笑う。
「フワデラさん、俺、小鉢と結婚する! していい?」
「駄目です」
フワデラさんが真顔で即答する。
「そうは言ってもなぁ。小鉢は俺の手を離したくないくらい好きなんだって……」
ボキッ!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう。見た目は小さな天使でも、小鉢は鬼人族の娘。赤ん坊であっても、その膂力は半端なものではない。
というか赤ん坊ゆえに、力の加減を知らなかった。
「アハハ、娘にフラれてしまいましたね」
楽しそうに笑うフワデラさん。
俺はといえば激しい痛みで地面をのたうち回るだけだった。
ちなみに「コバチ」という名前はフワデラさんが付けたのだが、それに『小鉢』という漢字を当てたのは俺だ。
俺が小鉢の名前を書いた色紙は、今はフワデラ夫妻の部屋に飾られている。
~ ギルド ~
女神クエストを受注していなくても、妖異を討伐するとEONポイントの報酬は発生する。
妖異といってもこの国の人々にとっては、妖異と魔物の区別は曖昧なもので、大抵の場合は魔物ということで一括りにされている。そのためギルドの魔物狩猟クエストの中には、妖異を対象としたものが混ざっていることが多い。
「どうせ妖異を倒すならEONポイントだけでなく、お金も欲しいよね」
「ですね。シンイチさんのおかげでイイ暮らしさせてもらってますけど、やっぱりお金があるにこしたことないですから」
正直、ルカからもらったゴールドの山があるので、お金に困っているというわけではない。だが、やっぱり貰えるものは少しでも多い方が良いという貧乏性から、俺は抜けられていないのだ。
俺はミチノエキ村のギルドで、タクスと一緒にめぼしいクエストがないか掲示板を眺めていた。
ステファンがギルドと交渉して、バーグの街にあるギルドの出張所を招致してくれたので、今ではここでクエストを受注することができるようになっている。
ちなみにここに派遣されているのは、俺がこの世界に来たばかりの頃に世話になった、貧乳だけど美人の受付のお姉さんだ。
名前はニナさん。ミチノエキ村のギルドで紹介されて初めて知った。
「ニナさん! お仕事お疲れ様です」
「こんにちは、シンイチさま、タクスさま。お疲れもなにも、ご覧の通り暇してます」
俺とタクスは、暇そうにしているニナさんに声をかける。このギルドが出来たことはそれほど知られていないので、訪れる冒険者はそう多くない。
だからといってずっと暇であるはずもないのだろうが、バーグの街と比べたら閑散としているように感じるだろう。
「こおのギルドの存在が知られるようになれば、すぐに忙しくなってきますよ。むしろ、俺としてはずっとこのまま暇だった方が、ニナさんと話す時間が出来て幸せなんですがね」
そう言ってタクスがニナさんの手を取ると、ニナさんの顔がサッと赤く染まった。
「い、いけませんは……わ、わたし今お仕事中で……」
恥ずかしそうにするニナさんの手はしっかりと添えられたタクスの手の上に重ねられていた。
(そう。貴女は今お仕事中で、しかも雇い主の前にいるんだけどな……)
もちろん名義上の雇用主はマーカス男爵になっている。だが、実質的に俺がタヌァカ三村のトップであることは、ニナさんやミチノエキ村の人々だって知っている。
そりゃね。「実質的なトップは俺だ!」なんて、こういう言い方は厭らしいとは思うよ。
なんか雑魚っぽいし。
でもね。でもね。
さも当たり前のように、自然と女性の手を握るイケメンと、それをさも当たり前のように受け入れる美人のお姉さんに、目の前でイチャイチャされるとね。
どうしても嫉妬しちゃうんだよ! コンチクショー!
こういうときライラが傍にいてくれたら、一瞬でそんなことどうでもよくなるんだが、残念なことに、ライラは今グレイベア村に出掛けてる。
タクス……お前、さっき立ち寄ったパン屋でサキュバスのイリアーナさんをナンパしてたよな。
イライラMAXな俺は、ついついタクスを睨みつけてブツブツつぶやく。
「イチャイチャしやがって……タクス、お前を巨乳にしてやろうかぁ!?」
小声で囁いたつもりだったのだが、二人の耳には入ってしまったらしく、二人の世界から引き戻されたタクスとニナさんがアワアワし始める。
特にタクスは、ネフュー女体化事件の話を知っているだけに、その顔が恐怖で真っ青になっていた。
「ちょ、シンイチさん!? 落ち着いて! 落ち着こう!」
聞こえてしまったのなら仕方ない。実行するしかない!
俺は両手をワキワキさせて、タクスに近づいていく。
「お願いします! 私を巨乳にしてください!」
突然、後ろから声を掛けられて、俺はタクスににじり寄るのを止める。
振り返ると、スレンダーな女性が俺を拝んでいた。
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