第97話 ネフューとの再会

 俺たちの荷馬車が間もなくネフューたちの村に到着するというところで、森の中から馬に乗った小柄なエルフが飛び出してきた。


 金髪に翡翠の瞳、透き通るような白い肌と細くて長い手足。長い耳と身体を覆う神秘的なオーラは、前世の俺がイメージする理想のエルフそのものの姿だった。

 

 ネフューやフィーネさんと同じように美しい見た目だった。


 ただ……俺より背が低くて小っちゃい。全体的に幼い印象だったので、俺の中では年長組の幼女にカテゴライズされた。


「あなたがシンイチよね? ネフューから話をいっぱい聞いてるわ!」


 馬車を御しているライラの隣に座っている俺の近くに馬を並べて、少女エルフが話しかけてきた。


「良い話は全部本当だけど、悪いのは全部ウソだからね!」


 少女の顔がキョトンとしてそのまま沈黙する。どうやら頭の中で何事か整理をしているようだ。ネフューの奴、この娘にいったいどんな話をしてるんだ?


 頭の整理が付いたのか、エルフ少女がまた話しかけてくる。


「……でも、シンイチはDTってやつなんだよね!」

「違うよー! それネフューが言ったの?」

「うん!」


  あのエルフ男、再会次第、女体化するとしよう。


「なんだ違うのかぁ……」


 どういう理由かわからないが少女エルフは残念そうな表情になる。しかし、すぐに気を取り直して自己紹介を始めた。


「あっ、ごめんなさい! 名乗って無かったわ! アタシは大樹の保護者シルマリスに連なる者にして森の勇者ジルクトと泉の乙女シルウェルの娘、シルフェン!」


 シルフェンは俺や他の面々に一通り顔を向けてから馬上で器用にお辞儀をした。


「皆さま! ネフューネ村へようこそ!」


 シルフェンがその腕を一杯に広げる。丁度良いタイミングで、彼女が腕を向けるその先に村の入り口が見えてきた。遠くからでも、そこに立っている二人が誰なのかは分かる。


 村の入り口ではネフューとフィーネが立って俺たちを出迎えてくれていた。


「「シンイチ!」」


 懐かしい二人の顔を見た俺は、嬉しさのあまり涙が溢れるのを止めることができなかった。


「ネフュー! フィーネ! 久しぶり!」


 俺はネフューたちに駆け寄ってその腕を取ろうと……。


「ネフュー! 元気そうで何より……女体化ぁぁぁ!」

 

 腕を取る直前でネフューはさっと腕を引っ込めた。その様子をフィーネや他の面々は呆れた顔で見ている。


「シ、シンイチ……シルフェンから何を聞いたか知らないけど、きっと色々誤解があると思う。うん。後で、後で話をしよう」


 俺とネフューとの間だけに奇妙な緊張状態が維持される。


「……」※沈黙


「……」※沈黙


 お互いの厳しい視線がぶつかり合って火花を飛ばしているが、その口は笑いを抑えきれていなかった。


「プッ……」


「ハハハハ!」


 緊張が一気に解けて、俺たちは両方の腕をがっしりと掴んで揺さぶった。


「元気そうで嬉しいよ! シンイチ!」

「俺も元気そうな二人とまた会えて嬉しい!」


 こうして俺たちはネフューの故郷に迎え入れられた。


「ネフューネ村というのはなかなか良い名前をつけたものじゃの」

「うーっ、うっ、うっ」


 荷馬車からフィーネに降ろしてもらいながら、ルカとグレイちゃんがネフューに話しかける。

 

「もともとは名前はなかったんだよ。森の里と言えば、漠然とこの周辺のことを指していたんだ。今回の復興で村に名前を付けようという話になってね」


 ネフューは少し照れくさそうに言った。フィーネさんがネフューにフォローを入れる。


「復興の一番の立役者だからって、村のみんなが付けてくれたんですよ」


「この素敵な村にピッタリの、とっても良い名前だと思います! 」


 ライラが周囲を眺めながら言った。


 ネフューネ村は深い緑の森の中に溶け込むような形で家々が建てられている。自然の地形を活かした美しい造形の建物が並んでいる。


 巨木の上に建てられた家や木々の間の吊り橋なんかは森のエルフのイメージそのままだ。ただその数は多くない。


「昔はみんな木の上に家を建てていたんだけど、先の戦争でかなりの大木が燃やされてしまったのでね」


 ネフューが少し寂し気に言う。そんなネフューの腰をルカがバンッと叩いて励ました。


「なに、木なんぞ数百年も経てばすぐに大きくなるわ! いちいち気を落とすでない!」


 あくまでドラゴン視点の励ましではあったけれど、長命のエルフには通じたらしく、ネフューがパッと笑顔に戻る。


「そうですね。気を落としている暇はありません。今は村の復興のために全力を尽くすだけです。ルカ様とシンイチから頂いた報酬を存分に活用させてもらっていますよ」


「確かにそのようじゃな」


 ルカちゃんが足元をトントンと踏みつける。村のメイン通りは中央部が石畳になっていた。通りの左右の端や個々の家につながる道は砂利や木で舗装されている。


 用水路には綺麗な水が絶え間なく流れており、メダカのような小さな魚がちょろちょろと泳いでいるのが見えた。


「ここがぼくたちの家だよ」

 

 そう言ってネフューが案内してくれたのは、木で作られたとても大きなお屋敷だった。


「ここは宿屋も兼ねていてね。外から来た客人にはここに泊まってもらってるんだ。もちろんみんなの分の部屋も用意しているよ」


「シンイチ! シンイチの部屋はアタシが準備したんだよ! ほら、こっちこっち!」


 シルフェンが俺の手を引いて木札の掛けられた扉の前に案内する。


 木札には「DTシンイチまぐわい部屋」と書かれていた。


「これ! アタシが作ったの! どう? どう?」


 シルフェンが褒めて欲しそうな顔で俺の顔を覗き込んだ。


「あ、ありがとうね!」


「喜んでもらえてよかったわ!」


 俺はシルフェンに笑顔でお礼を述べつつも、後でネフューを絶対に女体化&巨乳化してやろうと意志を強く固めていた。

 

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