第95話 フワデラさんの新婚旅行

「シンイチ様、ただいま戻りました」


 深夜、コボルト村の洞窟前広場でのんびり月見酒をしていたとき、突然目の前に白いイルカのような姿の精霊が現れた。


 ルカがぼくの護衛にと付けてくれていた風の精霊ウィンが使いから戻ってきたのだ。


 ウィンは相変わらずイケてる親父の渋いボイスだ。出会ったばかりの頃は、ウィンの声を聞くたびに前世の取引先の社長さんを思い出してしまって思わず体が緊張したものだ。


「おかえりー! ネフューとフィーネさんは元気だった?」


「ええ、お二人ともお元気でした」


「結構、時間が掛ったね? ネフューの村まではかなり遠いの?」


 コボルト村を出るとき、ネフューは故郷の村までの道中、精霊たちだけが認識できる印が刻まれた小さな塚を設置していた。


 そのためウィンはネフューの村まで迷うこともなく辿りつくことができたはずだ。


「いえ、その……お二人がとても良くしてくださったもので、ついつい長逗留してしまい……」


 ウィンがヒレで頭をポリポリと掻いた。仕草がカワイイなこのおっさんイルカ。


「そっか! それだけ居心地の良い村ってことなんだね」


 つまりはネフューの村の再建が順調だということなんだろう。


「はい。まだエルフの数は少ないですが、村の復興にみなが一生懸命で、誰もが目を輝かせていました」


「おお、いいじゃん、いいじゃん! それで……」


「ええ、いつでもお越しくださいとネフュー様から伝言をお預かりしております」


 『ぜひ村を訪れて欲しい』というネフューの伝言を受けて、早速、俺はネフューの村へ出かけることにした。


 子供を失った悲しみから徐々に回復しつつあるライラだったが、それでもまだ時折ふさぎ込んでしまうことがある。


 懐かしい顔を見ればライラの気持ちも安らぐだろうし、俺たちよりずっと長命のエルフの知恵で、ライラを癒す方法を教えてもらうことができるかもしれない。


「よっし! ネフューたちに会いに行くぜ!」


「わらわも行くのじゃー!」

「うっ! うっ! うー!」


 突然、俺の背後にルカとグレイちゃんが現れた。

 

「へっ!?」


「わらわたちも、ネフューの村に行きたい! 行きたい!」

「うーっ! うっ、うっ、うーっ!」


「ちょっ、ライラと二人だけのイチャラブ旅行なんだけど!?」


 ライラ以外の連れがいたら、好きな時に好きなところでライラとくんずほぐれつできないじゃないか!


 とっさに俺は練乳チューブを二本取り出して二人の買収を試みる。


 ルカとグレイちゃんは、俺の手からサッと練乳チューブを奪うと、再び駄々をこね始めた。


「行きたい! 行きたい! 行きたい! 行きたいのじゃー!」

「うっ、うっ、うーっ! うっ、うっ、うーっ!」


 しかも今度は地面を激しくゴロゴロしながらの駄々ごねときた。


「わ、わかった、わかったよ」


「何がわかったのじゃ? わらわたちを連れていくのか?」


「うっ! うっ!?」


 仕方ない。この二人であればライラとメイクラブするときも気を遣うことはないだろう。しばらく離れておくよう言い聞かせればいいだけだ。


「つ、連れていく……連れていくから」


「やったのじゃー!」

「うっ、ううっー!」


 喜びのあまり、先ほどより激しく地面をゴロゴロする二人を残して、俺はライラに旅行の話を伝えるべく奥部屋へと戻っていった。


 ライラに話したらすごく喜んでくれた。




~ グレイベア村 ~


「そういうことでしたら、お二人の護衛のため、わたしも同行するといたしましょう」


 グレイベア村でルカとグレイちゃんの旅行準備を進めていると、フワデラさんが俺に声を掛けてきた。フワデラさんの右腕には相変わらずシュモネーがくっついている。


「うふふ。新婚旅行ですね。ダーリン!」

「えっ、いやっ、ハニー、その、そうではなく、ご、護衛……」


 ダーリンとかハニーとか抜かしおったかこのバカップル。


「ダーリンと新婚旅行……行きたいな!」


 瞳をうるうるさせてシュモネーがフワデラさんを見つめる。それを受けてフワデラさんがオロオロし、ついに助けを求めるかのように俺の方を見た。


「ま、まぁ、新婚旅行大事! 大事ですよ! お二人も一緒に行きましょうよ!」


 俺はウィンを呼び出し、ネフューに六人でお邪魔する旨を伝えるよう使いに出した。


 ライラと二人っきりのはずが……R18旅行のはずが……子守とバカップルの面倒を見ることになろうとは……。


(ココロ:お猿さん、お猿さん)


(はい。ライラといっぱいイタシたいだけのお猿さんです。どうぞ)


(ココロ:ただいま神スパネットスーパーの3Fフロアで夏休み向け商品セールが開催されています)


(はぁ……それが何か?)


(シリル:テントも取り扱っているようですので、これを3つ揃えれば道中、それなりのプライベート空間を構築できると思いますが)


(そ、それだぁぁ!)


(ココロ:よかったですね。お猿さん)


(ココロチン! ココロチンは旅行の目的を誤解しているようだけど、あくまでネフュー達との再会とライラの慰安旅行であってだな……)


(シリル:ではテントは不要と……)

(3つ注文します!)


 テントは大きいため3回に分けて注文しました。


 ぐふふ。これで狭いテントの中でライラと二人っきり……。


 俺は旅行への期待に胸を膨らませていた。


 いや、正直に言おう。


 俺は旅行への期待に股間も膨らませていた。





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