第64話 離婚
俺とライラは結婚四日目にして離婚した。正確には離婚というより、結婚そのものが成立していないということだった。
「シンイチがまさか未成年だなんて聞いてなかったもの」
カレンは俺の戸惑った視線を受けて答えた。
「何となくおっさん臭が漂ってたから、カレンが気づかないのも仕方ないわよ」
エルザが余計な一言を付け加える。
ラーナリア正教では男女共に成人となる15歳までは結婚が認められていない。カレンは、ライラが16歳であることについては知っていたけれど、シンイチについてはそもそも全く関心がなかったので、知りようがなかったのだ。
「というわけなので、シンイチが15歳になったらまた式をあげればいいわよ」
そう言ってカレンは肩を竦める。
「はぁ」
俺は衝撃的な事実をライラに告げるべく、とぼとぼとライラの待つ奥部屋へと戻っていった。
まぁ、俺は転生者だしこっちのルールなんてどうにでもなったかもしれない。でも、ライラはこちらの世界の住人なわけで、それを考えたらやっぱりこちらのルールに従っておく方がいいのかもしれない。
なんてことを奥部屋の四畳半に寝そべりながら俺はライラに伝えた。
「というわけで結婚は俺が成人するまで待ってね」
「わたしはどちらでも構いませんよ。シンイチさまのお傍にいられればそれで充分です」
「ライラ……」
「シンイチさま……」
「……」※沈黙
「……チュッ」
ガバッ!
……というわけで、そこから3時間後。
「シンイチー、ライラとのまぐわいは終わったかぁー!」
「ルカちゃん! まぐわいとか言うんじゃありません! もう最高でした」
「最高だなんて……シンイチさま……」
「ライラ……」
「……」※沈黙
「……チュッ」
ガバッ!
……と俺がライラに覆い被さろうとしたところへ、ルカが俺たちの間に割り込んできた。
「おぬしらときたらもう、日がな一日中、そうやってまぐわいばかりしおって! ちょっとはわらわに構ってくれんか! わらわを構え! 構うのじゃぁぁ!」
「わかったよ。わかった。着替えたら行くから広場で待っててね」
「むぅ。では広場で待つことにする。早く来るんじゃぞ」
「ああぁ」
ルカが部屋を出て行くのを見送りながら、俺はため息を漏らした。
「ルカはドラゴンとはいえ、中身は幼女だからね。ちゃんと構ってあげないと拗ねちゃうからね」
「ふふふ。シンイチさまはお優しいのですね」
「そうかな?」
「そうですよ」
「ライラ……」
「……シンイチさま」
「……チュッ」
ガバッ!
……というわけで、そこから3時間後。
「シ・ン・イ・ヂィィ」
ルカが顔を真っ赤にして怒って部屋に飛び込んできた。
「痛い! 鼻を噛まないで! いやペロペロするのもやめて! 悪かった! 悪かった! つい、つい」
「ついなんじゃ!」
「つい……目を開くでしょ?」
「ん? 目を開く?」
「すると、ほら、そこにライラがいるよね?」
「いるのぉ」
「可愛いじゃん」
「わしは人間の美醜にさほど興味はないが、まぁシンイチがそういうならそうなのじゃろうな」
「可愛いなーって手を伸ばすとさ」
「はぁ」
「そこにこう……柔らかいじゃん?」
「ん?」
「柔らかいと揉むじゃん?」
「何の話じゃ?」
「で、ガバッとライラを押し倒すとだな」
「うん?」
「気づいたら3時間が過ぎていたわけ」
「死ねっ!」
ボコッ!
幼女(ドラゴン)の蹴りが腹に決まって、俺はその場に
「ルカさま、シンイチさまに酷いことしないで……」
「うっ、す、すまんかったのじゃ、つい反射的に」
ライラに何かと身の周りの世話をしてもらっている立場上、ルカはライラに頭があがらない。
「ふうっ。仕方ないのう。もうここで良い。シンイチ、わらわと話をしよう」
「ん、一緒に遊ぶんじゃないの?」
「それはもう良いわ。お前を待っている間に散々グレイと遊んだからな。実はお主に相談したいことがあっての」
「いいよ」
「話を聞いてくれるということか?」
「ルカさま、シンイチさまはその相談の内容を受けるとおっしゃられているんですよ」
「そうなのか?」
「そだよ。ライラの言う通りだよ。ライラは俺のことを良くわかってくれてる」
「ライラ……」
「……シンイチさま」
「やめぃ! 話が全然進まんではないか!」
ルカの相談というのは、自分の眷属に関するものだった。元々が火竜であるルカには、精霊だけでなく魔物や亜人など多くの眷属がいる。火の精霊ヴォルちゃんことヴォルカノンもそうした眷属だ。
火竜であるルカと眷属との関係は様々で、忠誠心によるもの、契約によって結ばれたもの、強者の力によって縛っているものなど、個々の眷属ごとに違っていた。
ルカの火竜としての巨大な力に屈服していた眷属の中には、ルカが幼女になってドラゴン本来の力を失ったことで離反したり復讐を望んだりするものが出てきているという。
離反する眷属についてはルカは去るがままにさせるつもりだ。しかし復讐や下剋上を望んで挑んでくるものについては、早めに対応しておきたい。そうしないとこの村にまで被害が及ぶかもしれないからだ。
「というわけで、わらわを狙ってくるであろう眷属をシンイチと倒してしまいたいのじゃ」
「その眷属って、やっぱり強いの?」
俺はルカの手のひらに乗っていたカワイイ火の精霊ヴォルちゃんのがレベル55であることを思い出しながら聞いた。
「全然弱いのじゃ! だから全然平気なのじゃ!」
うん。嘘だな。
「どうせあれだろ、ルカがドラゴンの状態だったらとか言うんだろ」
「なっ!シンイチはドラゴンの心が読めるのか!? 凄い! 凄いではないか! これなら反乱眷属などカスじゃ、カス!」
うん。知ってた。
まぁ、ショゴタンよりは怖くない……よね。
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