第56話 水道布設
コボルト村は水場には恵まれている。西の森には小さな急流が流れており、東に数キロも進めば大きな川に出る。
帝都ゴミ袋各種サイズは水の確保に大きな力を発揮してくれている。村の住人は暇があれば西の森に行っては水を汲んでくる。
村には粘土とゴミ袋を使ったため池が作られており、汲んできた水の一部はここに流す。ため池が一杯なときは外に作った簡易な小屋の中に袋のままおいて、必要な時に使うのだ。
さらに村にはこのゴミ袋を活用したシャワー設備と水洗トイレが完備されているのだ。
しかも、ちゃんと男女別に分かれているぞ! いずれも水袋をぶら下げているだけの簡単なものだけど、これがあるとないとでは天国と地獄ほどの差があるのだ。
ちなみに現在洞窟内は神スパで購入した現代日本グッズのフル活用により、異世界において異世界のような空間に変容しつつある。
それについてはまた後日語ることとして、今日の俺は小川から村まで水道を通すべく、コボルトたちとえっちらこっちら作業を続けていた。
村から小川までの直線距離は100m程なのだが、村に水を流すことができる程の位置となると800mの距離があった。俺たちはその場所に簡単な堰を設けて水を貯め、そこからヴァール竹を繋いで村へと伸ばし続けていた。
これらの作業は、コボルト村の設立宣言の翌日から行われてきていたものだが、それが今日ようやく開通できる状況になったのだ。
この水道の行きつく先は村のため池だ。この作業でずっとリーダーを務めていた男コボルトのロトスがヴァール竹を継ぎ終わって、いま村にいる全員が固唾を呑んで水が来るのを待っていた。
森の中の堰ではロコがヴィルから連絡を受けて、ヴァール竹に水を流し始めた。
「「「「「「じぃぃぃぃぃぃぃ」」」」」」
とてもとても長く感じられた時間が過ぎた後、ため池側のヴァール竹からチョロチョロと水が流れ始めた。
「「「「「「うぉぉぉぉ!」」」」」」
みんなが一斉に歓声を上げる! 水は止まることなくずっと流れ続けていた。ため池から溢れた水は溝を通って村はずれにある2mほどの崖から下に流れていった。
崖下は何年掛かるか分からないけど、いずれは下水処理用のため池になる予定だ。
今のところは崖下には実験農園を設けていて、主に女コボルトたちがその管理を行っていた。神スパで購入した花や野菜の種を植えて栽培可能な品種を模索している。
今日、水道が通ったことによって彼女たちは重労働だった水汲みから解放された。女コボルトたちが俺のところに来て一生懸命に頭を下げて礼を言ってくる。
「シンイチ、アリガト、ミズ、ラク、ラク!」
女コボルトたちに倣って子コボルトたちが俺を囲んでキャッキャッと騒ぎ始める。
「シンイチー!」
「うーううー!」
幼女(ドラゴン)と幼女(グレイベア)も子コボルトたちと一緒に騒いでいた。
ほんと、若い人間の女の子以外であれば俺ってそこそこモテてるよな。うん、モテてるよな。俺は涙を必死にこらえる。
俺は、これまでの水汲みと実験農園の管理を
女コボルトのコナ、ココミル、コルア、コレナ、コミナはブラシを受け取っても「ナニコレ?」という顔をしていたが、使い方を教えると凄く喜んでくれた。
彼女たちは自分たちだけでなく、子コボルトや男コボルトにもブラッシングを始める。
「「「「ふぉぉぉん!!」」」」
大好評で何よりだった。
~ 闖入者 ~
「ちょっとシンイチ! あれ! あれ頂戴!」
マーカスのハーレムパーティメンバーである都条例違反のエルザがノックもせずに俺の奥部屋に飛び込んできた。
「あれじゃわからん」
俺はエルザが何のことを言っているのかしっていたが、わざと知らない振りをした。俺は他人のハーレムメンバーには冷たいのだ。
「あれって、あれよ! コボルトたちが使ってるやつ、いい匂いがするやつ! 毛が艶々になるやつ!」
「シャンプーとリンスね」
「そうそれ、頂戴!」
「今はないなー」
「本当に?」
「あれ作るの結構大変なんだよ」
今のところ、石鹸とシャンプーとリンスその他洗剤については、神スパから購入はしていない。
最初は購入して何人かに配ってはいたけれど、これが村全員で毎日使い続けるようになってしまったら土壌や水質に悪い影響が出てしまうのではないかと恐れたからだ。
こんなことを考えるようになったのは、酒の空き瓶や缶、食べ物などの袋がかなり溜まって来ている状況があった。
たかがお菓子の空き袋ひとつとってもこの世界では貴重な素材に成り得るので、そういうのもゴミにせず綺麗にして丁寧に保存している。
ただ減ることなく増え続けていく
まぁ、適当なのは承知の上で、この世界の薬草や鉱石を使って実現できそうなものは、シャンプーや石鹸だけでなく色々と試行錯誤を続けている。この世界で調達できるものであれば、なるべくそれを使うことに越したことはないだろうから。
ようやくシャンプーとリンス(らしきもの)が出来たので、それをスプレーボトルに詰めたものを女コボルトたちに使ってもらったのだ。
結果は大好評だった。
それを見てエルザが俺の奥部屋にカチコミを掛けて来たということでもあった。
「って、その棚に二本あるじゃないの! 」
「えーっ、それは……予備?」
「予備なら今渡しなさいよ!」
「コボルトたちのを一緒に使わせて貰えばいいのでは?」
「そっ、それは……そうなんだけど……」
ん? ハーレムメンバーたちとコボルトの間に何か確執とかあったりするのだろうか。それはそれで問題だな。
俺の疑念を察したのかエルザが慌てて言った。
「嫌だってことじゃないのよ? 彼女たちにはいつもお世話になってるし……ただ……」
「ただ?」
「お世話になってるから、逆に使っちゃ悪いというか……」
「いいよ、持ってきな」
「えっ、いいの?」
「いいって言った」
「ありがとー!」
元気よく去っていくエルザの背中を見送る。
もしかして……村の中で妙な確執とか発生してたりしないよな。
俺はちょっと不安になった。
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