第33話 天の岩戸

「なぁシンイチ、何を怒ってんのかわからんがとりあえず出て来いよ」

「出ません!」


「ぼくが何かしたのなら謝る。とりあえず目を見て話しをしないか?」

「しません!」


「兄ちゃん! 何か怒ってるの? 俺が悪いの?」

「悪くない!」


「えっ!? なら何で閉じこもってるの!?」

「言いません!」


 これが数千年後、神シンイチが洞窟の奥の部屋に閉じこもって出て来なくなったという天の岩戸神話の始まりである。


 というかね。俺にも堪忍袋の緒が切れる一線ってのがあるの!


 ハタから見れば、ただのガキのワガママで周囲を困らせている図にしか見えないかもだけど!

 

 だがこうなった理由について知れば、十人中百人のDTが俺の側に立つことだろう。


 まずね。朝起きるじゃん? 朝昼夜の食事の度に四方から「はい、あーん」とか「うふふ、このスープわたしが作ったの」だの「これって間接キスだよね」とか「ロコ、タベル、コンヤ、ハッスル、ハッスル」とか聞こえてくるんすよ。


 四方八方からイチャラブ波動が俺に突き刺さってくるんすわ。


 今なら項羽が四面楚歌されたときの気持ちめっちゃわかる。俺の場合は四面ラブ波だわ。


 会議のときだって、会議だっつってんのに、「(女)マーカス(女)、(女)ネフュー、(女)ヴィル(女)、ロコ、(幼)俺(幼)」って並びになってんだよ! なんで俺だけ子守してんの?


 ねぇ何で? どうして?


 ロコもギルティだかんな。おまえが毎晩森の中でイタしているのを俺は子どもたちの報告で知ってんだかんな!


 だいたい俺はハーレムを作るためにこの世界に転生したんじゃなかったのかよぉぉぉ!


 ま、まぁ、いい。まだ我慢できる。何せ俺は前世からのDTだ。まだ慌てるような時間じゃない――


 とか、思ってたよ。昨日まではな!


 最初の始まりは夜中のトイレからだ。洞窟の外で用を足した俺は、夜空があんまり綺麗だったのでボケーっと星を見ていた。


 綺麗な星を見ているときに、ふと索敵してみると森の入り口付近に二つの青い点が表示されていた。


 こんな夜分遅くに誰だと思って近づくと、そこに居たのはネフューとフィーネだった。二人は俺に気が付くと少し慌てた様子で声を掛けてきた。


「や、やぁシンイチ、こんな遅くにどうしたんだ?」


「あっ、ごめん。と、トイレにね」


「そ、そうか」


「ご、ごめんねー」


 服が着崩れたネフューと胸元に脱いだ服を当てて裸体を隠そうとしているフィーネの姿を見て、慌てて俺は足早にその場を去った。


 まぁ、いい。まぁ許そう。エルフの美男美女が結ばれるというのはとても絵になる。二人から美少女エルフがこの世界に産み落とされるのはむしろ大歓迎と言ってもいい……かもしれない。


 洞窟に戻った俺が息を切らして自分の部屋に戻る途中、マーカスの部屋から何やら物音が聞こえてきた。


 あくまで俺は彼のことが心配で心配で仕方なくなって、そっとドアに耳を当てた。


 すると、まぁそんな状況なら誰もが予想する通り、ドアの向こうから喘ぎ声が聞こえてきましたよ。


 ただ俺が衝撃を受けたのは、その喘ぎ声が二人の女性のものだったからだ。もちろん、カレンとエルザだろう。というかおっさん、エルザは都条例違反だから! 死ね!


 一瞬、本音が出てしまったが、俺は高ぶる気持ちを押さえて、念のため、あくまで念のために、ヴィルの部屋の扉にも耳を押し当ててみた。


 彼らのプライバシーを考慮してこれ以上は何も言わない。


 ただ、奥部屋に戻った俺はもんもんとして眠れないまま朝を迎えることとなった。


 まだ――


 まだもしかしたら許せるかもしれない。


 命が軽いこの世界における子作り行為の重要性は、前世の平和な日本のそれとは比べ物にならないのかもしれない。いいや比べ物にならない! そうに違いない!

 

 それに彼らの子作り行為は、あくまでも彼らのプライベートタイムで行われている。俺が彼らに残業手当を支払う必要はない。払ったことないけど。


 だから寝不足で目が血走っていても、目のクマが酷くてパンダのようになって、相変わらず俺がDTでも、まだ我慢していた。俺は我慢できる子だからだ。


 ただ村の今後について話し合う重要な会議で集まっているにも関わらず、両手に花を侍らせて――まぁネフューは片手だが――ずっとイチャラブしている三人のクズ(八つ当たり)に、とうとう俺はブチ切れてしまった。


「ここから出ていけえぇぇ!」


 いきなり絶叫し始めた俺に、その場にいた全員が驚いた。当然だ。


「さっさと出てけぇぇぇ!」


 俺は手近にいたマーカスとヴィル、そして彼らのハーレムメンバーに向けて【幼女化ビーム】(意識維持、1時間)を放つ。


 その場にいた全員が慌てふためいて席を立ち扉に殺到した。


「ロコ」


 俺の声を聞いたロコがぴたりと動きを止めた。


 ロコも今の俺にとっては敵認定グレーゾーンにいる。ただし、ロコはひとりでこの会議に出席している。


「ロコ、俺はお前に対してもイラだっていないわけではないが、怒ってはいないよ」


「お、おこって、ない?」


「そう。お前は公私混同しないきっちり仕事ができる男であることを俺に証明した。それは誇っていい」


「あ、ありがと、ございま、す?」


 俺はロコの肩に手を置いて、外にいる連中に俺の要求を伝えて貰った。


 ひとつ、奥部屋の出入りはロコ若しくは子コボルトのみとする。


 ひとつ、強引に入ってこようとしたものは【幼女化】(意識なし、10日)の刑に処す


 ひとつ、俺がここに籠っている間は、子作り行為は洞窟の外で行うこと。万が一、壁伝いに音でも聞こえてきたときは【幼女化】(意識なし、30日)の刑に処す


 こうして天の岩戸は閉じられたのだった。






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