第2話 そこんとこ詳しく聞こうじゃないか

「同志キモオタ、ぜひそのプランについて詳しく」


「ヌフフ。やはり喰いついてきましたな、同志田中殿。よろしいですぞ。それでは女神さま方にキモがられて、これまで活躍の場が与えられなかった我輩の最初にして最高のプランを提供させていただきますぞ! デュフフコポォ」


「ははぁ! デュフフコポォ!」


 師匠の話をしっかりと聞くために、俺はきっちりと正座する。


 最初、でっぷりしたお腹でボサボサ髪のキモヲタ師匠が出てきたときには不安しか感じなかったが、ハーレム展開プランを提供してくれるというならこれはもう期待するしかない。

 

 キモオタ師匠は、これから俺が転生される世界とその状況について詳しく話してくれた。


 逆にそこまで知っておく必要があるの? というような細かい点まで説明してくれた。これがゲームだったらメッセージスキップするところだが、リアルに転生する今回に限ってはありがたかった。


 転生モノにありがちな「いきなり異世界」とか「とにかく行けばわかるわ!」と飛ばされるのはちょっと勘弁して欲しいからな。


 やがて話は核心部分へと入っていった。


「それでキモオタ師匠。その世界……ドラヴィルダでしたか、そこにはやはりエルフとかサキュバスとかもいるのでしょうか」


「うはっwww エルフの後に即サキュバスが出てくるとは、さすが田中殿ですなwww もちろん存在しておりますぞ。エルフならば冒険者ではない一般人でも、普通に生活をしていれば目にする機会はあるでしょうな」


 そうか! やっぱり異世界ファンタジーのハーレム展開でエルフは欠かせないもんな! いいぞ異世界!


 これから俺が転生する異世界ドラヴィルダには7つの大陸がある。


 大陸それぞれに担当の女神がいるのだが、ドラヴィルダで三番目に大きな大陸フィルモサーナを担当するのが、キモオタ師匠の上司でもある女神ラーナリアだ。


 現在、女神に敵対する魔王が大陸各地の魔物を率いて色々と画策している。もちろん大陸全土の覇権を狙ってのことだ。


「魔王を信奉する教団が、悪魔勇者の召喚儀式を行ったのですぞ」


 女神の力に寄らない異世界からの召喚は、本来であれば不可能なのだが、何らかの干渉が入ったために成功してしまったらしい。


 その結果……


「悪魔勇者と12の従者が召喚されてしまったのですぞ。その巻き添えを喰ったのが同志田中殿ということですなwww」


「そこはwww つけるなよ!」


 魔術教団による召喚儀式が成功したのと同時期に、俺のいた世界では電車内で放火テロが発生。犯人は12名の犠牲者と共に焼死。


 ホームに着いた電車からは怒涛の如く乗客が飛び出して階段に殺到し、それに巻き込まれて俺は死んでしまったというわけだ。


「召喚のタイミングで亡くなってしまった12人も、まさしく巻き添えになったのですぞ……」


 キモオタ師匠が沈痛な面持ちで顔を伏せる。


 深い哀しみと悔しさが顔にじみ出ているのを見て、ふざけた格好をしていても師匠ってやっぱり天使なんだなと思った。


 予想しなかった悪魔勇者の召喚成功に女神ラーナリアは驚愕し、その混乱は他の女神たちへも波及。


 その対応のために、みんながリソースを取られてしまい、転生者に対応する余裕もなくなってしまった。


 そこで年中暇を持て余していたキモオタ師匠が、俺の転生を担当することになったというわけだ。


「それじゃ、もし悪魔勇者の召喚がなかったら、女神が俺の面倒を見てくれてたのか?」


「それはないですな。女神さまは勇者を召喚する場合のみお出ましになられます故。それ以外のお笑い転生……げふんげふん……一般転生、つまり勇者のように『世界を救う』といったような大役を担うことのない転生者は、我輩のような天使が対応するのですぞ。デュフフコポォ」


「な、なるほど……一般転生ね。勇者じゃないのか。ちょっと残念」


「何をおっしゃる同志田中殿!」


 キモオタ師匠が目をクワッと開いて机をバンと叩く仕草をする。ちなみに机はないので音はしない。


「勇者となれば魔王を倒すという目標が強制的に課せられ、命を賭した戦いの日々を送らなければならないのですぞ! もちろんその厳しい縛りに比例して得られるものも大きくなるわけではありますが……」


「そ、そうか……そうだな。やっぱり勇者って大変なんだろうな」


「その通りですぞ! これが一般転生となれば自分で生き方を自由に選択することができるのですぞ! それ故、我輩としてもハーレム展開プランなどを提供することができるというわけですな。デュフフフ」


 現在、女神やほとんどの天使は、悪魔勇者への対応のため様々な対策に追われているという。


 俺の転生の重要度なんてのは最下位に近く、だからこそ自分が案内役に割り当てられたのだとキモオタ師匠が胸を張る。そんなとこで胸を張らないで欲しい。


 なんか俺の中にかすかに残っているミジンコサイズのプライドが、ちょっと傷ついた。でも泣かないもん!


「そのように卑屈になることはないですぞ。まぁ自分の身を守る力さえあれば、魔王との戦いは勇者がなんとかしてくれますので、そっちは任せておけばよいのですぞwww」


「そ、そうか……俺はとにかく自分のことハーレムを頑張ればいいんだな」


 俺が納得した様子を見て、キモオタ師匠がニヤリと笑う。このキモイ顔……とうとう本題に入るのだなと言葉を交わさずともわかる。


「さて、そろそろ転生までのリミットタイムも近づいてきましたし、ハーレム展開プランについてお話しますぞ。デュフフフ」


「待ってました!」




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