最終章 家族になる君へ

1

 その日の空の蒼さを僕は忘れない。僕と隆二にとってはある意味節目であった大事な日だったからだ。


 季節はもう夏になっていた。今年は去年よりも暑い日が多く、まだ七月に入ったばかりなのにシャツが汗ばむ。

 隆二の車に乗せられて僕らは久しぶりの休日ドライブを楽しんでいる。

 その日は天気の割にとても風が強くて。雲がすごい勢いで流れていた。ラジオから聴こえてくる天気予報ではもうすぐ台風が近づいてくるというのだ。

 こんな抜けるような空に信じられないことだった。

 車は高速を抜けると山の方へ向かう。途中でドライブインで休憩を挟んで、僕は車内で次々に変わる景色を楽しんでいた。


 ふと運転している隆二をバックミラー越しに見るととても穏やかな顔をしている。

 初めて会った時は陶器の人形のように冷たい印象だったのに、あの時と今とでは本当に同じ血が流れているのかと疑うほど全く別人のようだ。

 そういえば一緒にいる時隆二のリラックスした表情によく遭遇するようになった。

 飾らない横顔がまるで無防備で、造形は相変わらずの美しさを保っているけれど、自然なのがそれだけ僕に気を許してくれているってことだから、嬉しい。

 一緒に暮らすようになってからは朝起きて彼の寝癖があちらこちらに跳ねていて癖っ毛が更にひどいことになっているのに笑ってしまった。まるで猫のように背伸びをして床に転がってフローリングの冷たさに心地よくなって目を窄めたりと全く見られてることを意識しない態度だ。

 お返しにとばかりに、僕が寝てる時ほとんど動かないところが凄いと物珍しい動物でも見るようなからかいぶりに僕はむくれたりもした。


「どうした?」


 不意にチラッとミラー越しに視線だけを送られて少しだけドギマギする。

 僕に見られていることに先程から気づいていたに違いない。それまでは知らない素振りをするんだ。


「どこへ行くんですか?」

「ん……」


 質問した事を特別嫌がってる風でもなく、けれどまだ聞かれたくない様子でもありこの間が焦れったい。


「まだ内緒」


 少しだけ意地悪く視線を逸らしてみせる。でも口元は上がっていて構われるのが嬉しい様子でもある。

 けれど僕はこれ以上聞くのはやめた。決して彼は僕に嫌がらせをしようというわけではないと思ったからだ。

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