6
その日の夜。
僕は撮影が終わった直後から昼間の隆二の言った言葉に浮つき、どこをどう歩いて帰ったかわからないでいた。
その日の晩ご飯の買い物をしている時もずっとフワフワしたままだ。
何をどれくらい買ったのかわからなくなっている。けれど、冷蔵庫に食材を入れる時、僕はいつものようにちゃんと何を作るか考えて物を買っていたようだ習慣とは恐ろしい。
材料を見るとどうやらカレイの煮付けを作ろうとしていたらしい。
お鍋でカレイを煮ている間も僕は気もそぞろでキッチンから玄関の方ばかりみていた。
その玄関から鍵でドアを開ける音が聞こえると、心臓の音がまるで結婚式の鐘の如く激しく打ち付けてきてもう何にも集中できなくなっていた。
僕は火を止めると、慌てて玄関へ駆け出していた。
靴を脱いでいる隆二と目が合う。
なんとも言えない照れくささで、質問しようとしていたことが全部飛んでしまった。
「お帰り……」
「ただいま」
「今ね夕飯の準備して……」
言いかけた言葉が隆二の唇で塞がれた。
隆二はそのまま唇を重ねたまま僕を抱き寄せる。
僕はそのまま彼に体を委ねた。拒絶する理由がない。むしろ嬉しい。
「好きだ」
口から漏れた低くて切なげな声に胸が熱くなる。再び唇を重ねられた。
隆二の唇も舌も心地よくて僕は意識がぼうっとなってしまう。
すり合わせた体もむしろもっともっととねだる様に彼にすべてを委ねていた。
「僕は守がいいんだ……」
僕も自然と彼の腰に手を回していた。そのまま壁に押し付けられ、更に深くキスをされる。
こんなキスは久しぶりで口の中を掻き回されるたびに、嬉しさと切なさで涙がじんわりと滲んできた。
隆二の包容に応えるように僕も彼の腕に手を回した。
「僕だって、隆二がいいよ……さっき隆二が言っていた意味。どう解釈したらいいかちょっと混乱したんだけど、でも……僕は隆二が何を望んで何を考えているのかが少しわかった気がしたよ」
「守」
「相手のことをなんでも知ってるよりは知らない方がいい。そうだね僕もわからないことが多いと不安になるものだと思っていたけど、そうじゃないんだね。相手をわかりたい。そう思う気持ちが一番大事なんだなって」
「ああ……」
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