2

 柿崎アヤト社長と空良くんと僕、そして昴さん。

 四人でテーブルを囲んでいても僕は三人の会話なんて頭に入ってこない。

 それよりも昴さんと隆二は話し合ったのかなと、そのことばかり考えていた。


 三人が立ち上がった時、もう話が終わったのだと思った僕は無意識にみんなと同じように立った。

「待て、春原くん、君に話がある」

 昴さんに呼び止められて、僕は心臓が飛び上がる。初めて彼と視線が合った。


 気づくと社長も空良くんも昴さんが僕を呼び止めた理由を理解しているらしく、手を振りながら奥の部屋に入っていく。

 僕は焦ったけれど、時既に遅し。昴さんに何を言われるのかと構えてしまった。


「そんなに僕を恐ろしいものでも見るような目で見るな。何もしない」

 彼の手が動くと僕は思わず目を瞑ってしまった。手に何か本を渡される。

 恐る恐る目を開けるとこの間のお芝居のパンフレットだった。


「楽屋にきてくれた他の人には渡したのだが、君の分は渡してなかった。柿崎社長から人数分揃えて欲しいと言われていたからね」

 僕は黙ってそれを受け取る。

「もちろんそれは口実で、僕が君に話があるのはわかっているよね。明確な部分はなるべく言わず、君と二人で話ができるようにした」

 僕は思わず顔を上げた。


 やっぱりそうだよね。


「……それって、やっぱり彼の事ですか?」

「お前は隆の事をどう思っている?」

「どうって……」

「もし何も考えずに遊び感覚で付き合っているなら……」

「それはありません!」


 思わず少し声が大きくなっちゃったかなと周囲を見渡すが誰もいなかった。

「悪いがはっきりさせたいことがある。隆が先日僕のところにきたが、僕は終わらせたつもりはない。お前はいつものように浮気相手だと思ってる」

 まるで冷水をかけたような殺傷能力の高い言葉をぶつけてくる。


「違います、浮気相手じゃないです!」

 僕が慌てて言葉を付け加えても、彼は僕の話など聞かずに出ていこうとしていた。


「待って、待ってください。僕らは本気です」

 僕は足早に立ち去ろうとする昴さんの背中に言葉をぶつけた。


「証拠は?」

 昴さんは立ち止まると振り返らずに意地悪そうに言う。

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