第五章 一緒になるということ
1
僕はかなり動揺していたと思う。
何が起きたのか視界には入っていても、頭が理解できていない。
絨毯敷の階段を降りると、そこには沢山の人がまだ劇場内にいた。
少し息が切れていた。その場で膝に手を当てて少しだけ息を整える。
訳がわからない。いや、でもその前に隆二の元彼って……。
どこかで聞いた。無意識に聞いてたんだ。
たぶん、ううん、わからない……。
ああ、わけわからない、完全に動揺している。どうかしてる。
どうしたんだ。なんだ。何がどうなった?!
その時いきなり僕は腕をがっ、と掴まれた。僕の知ってる手が。
隆二が背後で息を切らしている。
気配や彼の手の大きさやぬくもりでわかるのに、僕は振り返れなかった。
「守っ、待ってく……」
僕は咄嗟にその手を振り払った。
階段を再び降りる、でも僕の後を駆けてくる足音は遠のくどころか僕を絶対に逃すまいと大きな手が再び腕を掴もうとする。
階段の途中で誰かが僕というよりも背後にいる隆二の存在に気づいて、顔を高揚させる。
僕はその好奇の視線をかいくぐるように一階のフロアまで降りると、そのまま表の出口から外へ飛び出した。
変な汗をかいている。
どこをどう歩いているかもわからない。
もう辺は暗かった。
一人で歩いていると公園が見えてきた。こらえ切れなくてもう歩けなくて、思わず手で口を覆った。
膝がガクガクしてる。体の震えが止まらない。
でも僕の背後に諦めることなく彼はついてきていた。
少し息を切らせて、あの大勢の好奇の目からどう逃れてきたのだろうか。
彼の存在を感じ取って、心を搾り出すように僕の背後に向かって気持ちを吐き出した。
「酷いよ……」
「ごめん」
しばらく僕は訳が分からずただ悲しくて、もうすぐ五月で少しも寒くないはずなのに、心に言いようもない寒さを感じて踞った。
諦めない隆二の手が僕の腕を再び掴む。
今度は逃げられないと思った。
僕は諦めて彼に掴まったまま、どうしてこんなに溢れてくるのかわからない涙をただ手で拭っていた。
「あんなところ見られて、言い訳に聞こえるかもしれないけど、でも聞いて欲しいんだ」
「……」
「僕からキスしようとしたわけじゃない、彼が……」
「元彼だったんでしょ?」
僕の言葉に隆二が息を呑んだ。
「なんで、知ってるんだ……?」
「なんでって、彼のファンの間では有名みたいだよ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます