第五章 一緒になるということ

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 僕はかなり動揺していたと思う。

 何が起きたのか視界には入っていても、頭が理解できていない。

 絨毯敷の階段を降りると、そこには沢山の人がまだ劇場内にいた。


 少し息が切れていた。その場で膝に手を当てて少しだけ息を整える。


 訳がわからない。いや、でもその前に隆二の元彼って……。

 どこかで聞いた。無意識に聞いてたんだ。

 たぶん、ううん、わからない……。


 ああ、わけわからない、完全に動揺している。どうかしてる。

 どうしたんだ。なんだ。何がどうなった?!


 その時いきなり僕は腕をがっ、と掴まれた。僕の知ってる手が。


 隆二が背後で息を切らしている。

 気配や彼の手の大きさやぬくもりでわかるのに、僕は振り返れなかった。

「守っ、待ってく……」

 僕は咄嗟にその手を振り払った。


 階段を再び降りる、でも僕の後を駆けてくる足音は遠のくどころか僕を絶対に逃すまいと大きな手が再び腕を掴もうとする。


 階段の途中で誰かが僕というよりも背後にいる隆二の存在に気づいて、顔を高揚させる。


 僕はその好奇の視線をかいくぐるように一階のフロアまで降りると、そのまま表の出口から外へ飛び出した。

 変な汗をかいている。


 どこをどう歩いているかもわからない。

 もう辺は暗かった。


 一人で歩いていると公園が見えてきた。こらえ切れなくてもう歩けなくて、思わず手で口を覆った。

 膝がガクガクしてる。体の震えが止まらない。


 でも僕の背後に諦めることなく彼はついてきていた。

 少し息を切らせて、あの大勢の好奇の目からどう逃れてきたのだろうか。

 彼の存在を感じ取って、心を搾り出すように僕の背後に向かって気持ちを吐き出した。

「酷いよ……」

「ごめん」


 しばらく僕は訳が分からずただ悲しくて、もうすぐ五月で少しも寒くないはずなのに、心に言いようもない寒さを感じて踞った。

 諦めない隆二の手が僕の腕を再び掴む。

 今度は逃げられないと思った。

 僕は諦めて彼に掴まったまま、どうしてこんなに溢れてくるのかわからない涙をただ手で拭っていた。


「あんなところ見られて、言い訳に聞こえるかもしれないけど、でも聞いて欲しいんだ」

「……」

「僕からキスしようとしたわけじゃない、彼が……」

「元彼だったんでしょ?」

 僕の言葉に隆二が息を呑んだ。


「なんで、知ってるんだ……?」

「なんでって、彼のファンの間では有名みたいだよ?」

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