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「そうか……」

 隆二はどこか観念したような様子で、僕の背中にそっと触れた。


「もう過去の事だ」

「随分沢山元彼がいるんだね」


 僕は正直面白くなかった。だってそうでしょ? 元の彼ってことは、あの人と何もなかったわけがない。

 隆二が軽くため息をつく。


「そんなに沢山彼氏はいないよ」

「嘘っ……」


 辺は鬱蒼とした木々に囲まれた公園で、今まで雑居ビルの喧騒をくぐってきたように思えないほど暗く静かだった。

 そこに公園の街頭だけがポツリとその周辺を照らしている。


「ちゃんと話をしよう、君が聞きたいこと全部話すから、もっと落ち着いたところで」

「落ち着いたところ? そんなとこあるの? 家に帰っても隆二が妙ーに贔屓しているお姉ちゃんが合鍵で家に入ってて。また冷蔵庫でも漁ってるんじゃないかな? 姉ちゃんが冷蔵庫のハム食べてるところで、隆二の過去の彼の話なんて聞きたくないよ」

 

 僕は意地悪く彼に言い放った。


「贔屓って、別に贔屓なんてしてないだろ」

「してるよ、いつまでも家に居座ってるあいつをニコニコ相手してるんだから、なぁに? 可憐の胸にでも悩殺されたの?」

「何をバカなこと言ってるんだ。そうじゃないだろ、彼女はお前を大事にしている人だから大事に思ってるんだろ?」

「僕は可憐なんかに大事にされたおぼえなんてないよ!」

「……守。お前……」


 しばらく隆二は無言だった。その瞬間(とき)が僕にはとても長く感じた。


「とにかく、どこか喫茶店ででも話をしに行こう。とにかく落ち着いてくれ」

「僕は冷静だよ! 隆二の言い訳が多くて、朝までかかっちゃうかもね」

「そんなに時間はかけないよ」

「かかるよ、元彼なんてきっともの凄い数がいて、一人一人説明してたら朝までかかっちゃうね!」

 僕は振り返ることもせず、公園の灯りをさっきからずっと睨みつけていた。


「そうか、そんなに朝まで時間かけたいのか」

 急に隆二が僕の腕を強く掴んで、僕を引きずるように歩き出す。すごい力だ。


「痛いっ、そんな乱暴に引っ張らなくてもいいじゃないか」

「お前があまりにもなんにも知らない世間知らずな子供だからな、朝までしっかり話してやることにした。じっくりとな」

「ど、どうせ僕は子供だよっ、隆二みたいに沢山の人知らないよ! 隆二みたいにあちこち手出してないし!!」

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