最強の戦力

 ――ようやく解放された。


 あれからパトカーが十台は駆けつけてきて、大事に。その状況を見た他の生徒がの何事かと野次馬になっていた。結局、大事件となってしまった。


 逃げるように学校を去り、会社アークを目指した。



「とんでもない目に遭ったな……」

「そ、そうね。もう疲れたわ」



 さすがの璃香も溜息を吐く。

 更に、和泉も随分とやつれていた。



「大丈夫か、和泉」

「……は、はい」



 弱々しい声で和泉は返事をしたが……大丈夫ではないな、これは。早々にアークへ向かい、なんとか気を落ち着かせたいな。


 あとは、おまけとは言ってはなんだが、ほぼ部外者となっていた菜枝が後ろからトボトボ着いて来ていた。



「菜枝、お前は逃げていたんだな」

「うん。だってさ、包丁を持った男が校門をウロウロしていたんだよ!? そんなのビビるに決まってるじゃん……隠れてやり過ごしたよ~」


 おっしゃる通り。

 そんなヤツがいたら、俺でもビビるっていうか、実際にビビった。


「そうか、無事で何よりだ。これからアークへ向かう」

「いろいろあったけど、やっとだね」

「お前は初だったな。楽しみにしておけ」

「今のところまだ信じてないけどね」

「おまえなぁ……まあいい。もうすぐ、事件の事なんて吹き飛んでしまうような衝撃がお前を待ち受けているからな」


「へえ、楽しみ!」



 ◆



 ようやく“アーク”の前へ辿り着いた。


「ここが俺の会社だ。菜枝」

「へ……こ、このビルぅ!?」

「セキュリティ厳重だからな、下手な事をすると直ぐに警備員がすっ飛んでくるぞ」

「へ、へぇ……マジだったんだ」


 震える声で菜枝はビルを見上げていた。よしよし、やっと信じたな。


 正面玄関を行くと今日も警備員の天満さんがいた。挨拶を交わし、エレベーターへ。


「す、賢さん」

「なんだ、菜枝」

「これ、何階建てのビルなの?」

「十階だ。一番最上階が社長室。九階が何故かホテル仕様になっていて宿泊可能だ」


「うそー!! 凄すぎない! なにこれ、ドッキリ!? てか、街並みが見渡せて綺麗だね!」


 世話しないヤツだな。

 昔はあんなクールな女の子だったのに。

 いったい、何があったんだかな。


「それより、璃香。今日から、会社で寝泊まりがしたい。いいか」

「もちろんです。決めるのは社長ですからね」


 秘書モードとなり、敬語を使う璃香。

 この方が大人っぽいっていうか、好きだなぁ。


 最上階に到着し、菜枝に軽く案内してやった。



「良い眺め……。本当に賢さんの会社なんだ」

「そう言っているだろ。いい加減に信じろよ」

「うん、信じた。賢さんって高校生なのに凄い人なんだね! 尊敬しちゃう」



 璃香のおかげだけどな。それに、まだ始まったばかり。そろそろ仕事への着手もしていきたいところだ。今回の小島事件も解決したし、和泉も約束通り協力してくれるだろう。

 この人数だと社長室よりも会議室の方がいい。セキュリティカードを通し、中へ。「みんな、座ってくれ」と着席をうながした。



「それで、和泉。今日、あんな事件があって直ぐには決められないだろうけど……社員になってくれるか?」

「えっと……わたし、その……」


 和泉は悩んでいるようだった。

 そうだな、まだ心は癒えていないはず。

 無理を言ってしまったかな。


 心配していると、和泉は立ち上がった。



「東雲くん……いえ、賢さんは、わたしを守ってくれました。約束をきちんと守ってくれたし、とても嬉しかったんです。だから、会社に入ります」


「お……おぉ! マジィ!?」


 てか、名前でいきなり呼ばれてドキッとした。――ともあれ、和泉の入社が決定した。これは最強の戦力・・・・・となる。そして、ついに前進できる。

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