教室内で密着イチャイチャ

 愛妻弁当の中身は『そぼろ弁当』だった。


 黄色の卵がギッシリ。

 たっぷりの肉そぼろ。

 おまけの桜でんぶ。


 さっそく、いただこうと思った矢先――璃香にはしを奪われてしまった。


「おいおい、食べられないじゃないか」

「はい、あ~ん♡」


「え……ちょ! 菜枝の目の前で!?」

「気にしない気にしない」


 いや、気にするのだが!!

 菜枝が驚きのあまり石化しているんだが!!


 だが、空腹には勝てない。

 俺はパクッといただいた。


 ……うめぇ。美味すぎる。完璧な味付けだ。なんだこのお店で出てくるようなクオリティ。お金を払ってもいいレベルだぞ。



 史上最高の幸福感に包まれていると、菜枝が意識を取り戻した。



「すすすすすす、賢さん!!?」



 驚きすぎだ!



「あー…言ったろ。璃香は、俺の秘書・・なんだ」

「いや、意味分かんないし! てか、二人は付き合っているの!?」



「「…………」」



 俺も璃香も沈黙。

 そうか、これって付き合っているっていうのか? いや、ちょっと違うような気もするけど、でも中々に恋人っぽい事をしているような。……しかし実情、俺は完全に璃香のペースに飲まれている状態だ。だから色恋沙汰に変換できない状況に陥っていたのだ。



「あー、これは決定的だね」

「勝手に納得するんじゃない。菜枝、お前もこっち来て弁当食え」

「えー、私もぉ?」

「これから一緒に活動するなら、歓迎会だ」


「そっか。じゃあ、お邪魔するね!」



 元気の良いヤツめ。てか、女子が胡坐あぐらをかくんじゃありません。はしたない。そう注意すると「えー、これが楽なんだもん」と菜枝は聞かなかった。璃香を見習え、ずっと姿勢の良い正座だぞ。



 ◆



 璃香の料理を味わい、完食。

 お腹は十分に満たされた。



「御馳走様でした。璃香、すげぇ美味かった」

「うん、月曜日も作ってあげるからね」


 そうか、明日はもう土曜日だ。休みかぁー…となると、会社の方へ集中できるわけか。だが、その前に和泉の問題を解決してやりたい。



 ――昼休みが終わった。



 菜枝は、一年へ戻って行った。本当にこの学校の生徒だったとはな。帰りに合流すると約束した。ついでに“ライン”も交換した。


 直ぐにメッセージが飛んできた。



『賢さん、置いていかないでよ!』



 なにを心配しているんだか。

 置いていくわけがないだろうに。



 教室へ戻ると、小島の姿はなかった。もう遅刻どころの話ではない。サボりだ。となると、今日は気にする必要もないかもしれない。でも、要警戒だ。気を抜いたところに不意を突かれる可能性もある。油断大敵だな。


 授業は淡々に進んでいく。

 璃香の言いつけを守り、真面目に受け――放課後。



 小島は来なかった。

 単なるサボりだったのか、それとも。



 とりあえず、璃香を連れ出そうとしたが……別のクラスの男子・倉木に捕まっていた。どうやら陸上部でエースらしい。女子も放っておかない存在イケメンだ。そんな倉木が璃香を狙っていた。


 さすが美人ギャル……男が自然と寄ってくるな。


 聞き耳を立てると『マネージャーになってくれ!』とスカウトされていたようだった。馬鹿め、璃香はもう俺の秘書なんだよ。



「ごめんね、無理」



 一応、頭を下げて璃香はこちらに来た。

 倉木は俺の存在に気付き――コノヤロォ~という目線を送ってきた。怖ェ……。チビりそうになっていると、璃香が俺のひざの上に乗ってきた。



 うわぁッ!?



 俺も驚いたが、俺以上に倉木が深いショックを受けていた。もう怒るどころか、白目を剥いているじゃないか。俺と璃香の関係を認め、倉木はトボトボと去って行った。



「おいおい、璃香」

「やっぱり、賢が一番落ち着く」

「あのなー…、まあいいけどさ。因みに聞くけど、俺とあの倉木の違いはなんだ」


眼鏡めがねが似合う人。あと、心に余裕がある人が好みかな~」



 いや、めちゃくちゃ動揺していますけどォ!? 教室内でこんな密着して……あぁ、クラスメイトが死んだ大怪獣でも見たかのような目線を向けているぞ。



「璃香、そろそろ和泉さんの様子を見に行こう」

「もうちょっと、このままでいない?」


 優等生の和泉は教室から出てくるのが遅い。時間はまだ少しあるはず。


「仕方ないな。それまで時事ネタでも話すか」

「じゃ~、今日の日経平均株価だけど――」


 日経225かよ!!

 本当に株とか好きなんだな~。

 株価指数を聞いても分からんって。

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