親戚の女の子

 ――驚いた。


 あの茶髪のツインテール。

 気の強そうな表情をこちらに向け、俺の姿だけをその瞳に宿しながら歩み寄ってくる。



草薙くさなぎ 菜枝なえ……菜枝か」



 何故か我が“松本高校”の制服に身を包んでいた。まて、コイツは確か他の高校へ進学したんじゃなかったのか。親父からそう情報だけ聞いたけど。



「賢さん、久しぶりだね。お父さんから聞いているかもしれないけど……私は家出・・したの」

「――は? 家出だと? まてまて、親父からは“複雑な事情”があるとしか……あぁッ!」



 そういう事・・・・・かよ。

 あの親父、俺に面倒事を押し付けたなァ!



「私はこれから、賢さんの部屋で寝泊まりすればいい?」

「ちょ……勝手に! まだ俺はうなずいてもいないぞ」

「いいんじゃん、親戚なんだし」

「ていうか、お前とこうして長々会話するのも、ほぼ初めてだぞ。いつも『うん』とか『へぇ』とか淡々としていたし」


「事情が変わったの。今は賢さんしか……頼れる人がいない」



 肩を落とす菜枝。

 そうあからさまにされるとなぁ。

 心苦しいというか、何と言うか。



「う~ん、とはいえ俺の部屋は無理だ」

「そんな……」



 だけど、住む場所はある。


 そう、俺には会社アークがある。

 でも俺だけの判断では無理だ。

 隣でやや呆れ顔の璃香を説得しないとな。



「璃香、こいつは親戚の子で『草薙くさなぎ 菜枝なえ』という。幼少の頃はよく家に遊びに来た女の子なんだが、時間経過とともに疎遠になってな。こうして会うのは十年振りかもしれん」


「へぇ、こんな可愛い親戚がいたんだ。意外ね」

「まあ、昔の話だったがな。まさかこうしてまた再会するとは思わなかったけど」


 そのまま自然消滅フェードアウトすると確信していたくらいだ。だけど、運命とは分からないものだな。



「ねぇ、賢さん。その……ギャルの人、誰?」

「そうだな、この金髪のお姉ちゃんは同じクラスの『宮藤みやふじ 璃香りか』だ。見てくれはギャルだが、すげぇ金持ちなんだぞ。協力してもらえたおかげで会社が出来た」


「か、会社!?」


「ああ、商店街の近くにある」

「う、うそー…。冗談だよね?」

「本当だ。住むなら、そこを紹介してやる。ただし、璃香次第だ。管理は、この秘書がしているからな」


「ひしょぉ!?」


 さっきから驚きまくりの菜枝。そりゃそうだよな、普通に考えて高校生の会話じゃないな、これ。俺でも何を言っているんだと思うが、これが現実リアルなのだ。



「菜枝ちゃんだっけ。何やら訳ありのようね」


 と、璃香は、菜枝に握手を求めた。


「よ、よろしく……お願いします」

「うん。この賢には話さなくていいから、まずはお姉さんに話してみて」

「……それでいいなら」


 まずは璃香に任せておこう。

 あとでこっそり教えて貰えばいいしな。



「まあ、まずは昼飯にしよう。放課後でいいだろ――って、だめだ。まずは、小島の件を何とかしないとなぁ」


「小島って?」


 首を傾げる菜枝に、俺は事情を説明した。


「――って、わけなんだ」

「へぇ。元アイドルの凄腕プログラマーさんを会社に入れたいんだね」

「その為には小島を刑務所送りにしないといけない」

「んな無茶な!」



 菜枝は、見事に突っ込んでくれた。

 おぉ、コイツ良いノリしているな。

 昔より、今の方が俺は好きだな。



「何か方法があるといいんだけどな」

「分かった。私も強力するよ、賢さん」

「マジ? いいのか」

「うん、これからお世話になるんだもん。私も賢さんのお手伝いをするよ」


 まあいいか、親父からの頼みでもある。断るわけにはいかない。俺が責任を持って、この子の面倒を見ないと。


「無茶はするなよ、菜枝」

「はぁーい!」


 本当に大丈夫かなぁ……。

 少し心配だけど、空腹に負けた。


 璃香の弁当をいただこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る