えっちな写真

 オレンジの卓球ボールがアームから落下。この瞬間ときだけスローモーションに見え、コトンコトンと音を立てて跳ね飛んだ。


 赤い穴に入れば……当たり。

 それ以外はハズレ。


 穴が絶妙な位置にある為、なかなか入り辛いのだが今は二個が狙いを定めて飛んでいる。……入れ! ……入れ! その隣だ。


 だが、一個目はかすめて当たり穴の隣へ。


「うわ……惜しいっ!!」

「あぁぁ……うそぉ、賢ぅ!」

「大丈夫だ、もう一個ある。あれを信じるんだ」


 希望は常にある。

 もう一個が必死にバウンドし、転がっていく。場外ではなく内部!! たこ焼きのプレートゾーン。これは激アツ! 赤い穴へ狙いを定めていく。これは入る可能性が高い。頼む、入ってくれ!!


「そこっ!!」


 さすがの璃香も子供のように応援していた。俺も手汗を握る。いってくれぇ!



 次第にコロコロと回転が弱くなっていく。……あっ、まずい。このままだと場外へ!! しかし、さっきのハズレ穴に入った玉に上手く衝突して……うぉ!! それが『壁』となり、飛び越える事無くリターンした。再び赤い穴へ向かっていく。



「いけるぞ!!」



 回転力は弱い。

 このまま余計な力が加えられなければ勝確。いや、これは……! グルグルとスピンするボールは、やがて“当たり穴”に落ちた――。



「おぉ!! 賢!!」

「やったな、璃香!!」



 大当たりのBGMが鳴り響き、ゲットが宣告された。遠くからスタッフが駆けつけてきて、『ニート転生』全巻セットが景品として贈られた。



「千円ちょっとか。十分元は取れているな」

「うん。すっごく嬉しいっ」



 そんな爽やかな笑顔を見れただけでも、俺はゲーセンに来た甲斐かいがあったなと思えた。


 店を出て、さすがの解散となった。


「じゃあね、賢」

「おう、じゃあまた明日だな」


 手を振ると、ちょうど璃香の迎えが来た。イカついレクサスだ。運転手は女の人のようだが、璃香って実は良い所のお嬢様なのか?



 ◆



 自宅に戻ると、スマホが鳴った。

 画面を見ると璃香からだった。


『賢、今日はありがとねー♡』


 ハートなんて付けちゃって、嬉しいぞコノヤロー。ん、しかも写真付きか。どれどれ――っと、見てみると胸の谷間の写真じゃないか!!


 ……璃香のヤツ、なんちゅーもんを。

 えっちすぎるだろ、これは。



「こ、これは……保存だな」



 その後、璃香からのメッセージはなく、俺は飯を済ませたり風呂に入ったり。いつもの日常を過ごす。風呂から出ると、親父が現れた。


「おい、賢。なんか最近、ご機嫌だな。まさか女の子でも出来たのか?」

「それもあるし、俺は会社を作るよ」


「は? お前、彼女が出来たのか!? 会社ってなんだよ」



 親父の相手は面倒臭いので、それっぽく話した。すると、親父は「マジかよ!」と驚いて、すっかり信じていた。まさか信じてくれるとはな。話が早いけど。



「――というわけなんだ」

「お前のスマホで見せて貰ったビルと資産が本当なら……凄いな」

「まあ、俺のというよりは、璃香のだけど」

「そうか。これも“運命”かね」


「運命?」


「いや、がんばれよ、賢。何事も経験なんだ。失敗もあり、成功もあるだろう。父さんは失敗ばかりの人生だったが……お前ならきっと成功する」



 なんだかよく分からんが激励されたようだ。部屋に戻ろうとすると、親父は「待て」と止めた。



「まだ何かあるのか?」

「あー、そうだった。親戚の子が近々、お前を頼るかもしれん」

「え……親戚の子って、あの女の子か」

「そうだ、どうやら複雑な事情があるらしくてな。この家に泊めようと思ったが、賢に任せようと思う」


「なぜ、俺!」

「お前なら任せられると思ったんだ。賢、お前はもう社長なんだろう?」

「だからってなぁ。会社ウチは、児童施設とかじゃないんだぞ」

「頼む。その代わり、お前にとやかくは言わんし、自由にやらせるから」



 親父……俺を認めてくれるのか。

 必ず大学へ行けだの、もうちょっと友達を作れだの毎日、口酸っぱかった親父が……。その条件ならいいか。


 俺は、親戚の子を迎える事にした。

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