第四話 協力




「何とかなったな」


「はい……。でもまだ始まったばかりです」


 朱慶様と織田家がぶつかったのか、遠くから爆発音が鳴り響く。煙のようなものがいくつも上るのを見た。



「そうだな。回復魔法で一旦回復し戦場に戻るぞ」


 このままでは何もできないと、私たちは回復魔法をかける。


「フェブリクラーレ!」


 銀の光が私たちに降り注ぐ。それと同時に体が嘘のように軽くなった。


「よし。では戦場に戻るぞ。大丈夫か?」


「はい。参りましょう」


 戦うと決めたのは私。


 蒼威様が差し出す手をぎゅっと握り返す。

 そうして私たちは朱慶様を追って、再度山を駆け降りる。


「燃やせーっ! 全部燃やし尽くせ!」


 そんな声が前方から飛んでくる。

 目を向けると、水に呑まれて後退した織田軍から、杖を持った人々が躍り出る。

 そして金の鎧を纏った織田様が、不敵な笑みを湛えていた。




「――すべて燃やし尽くせ」




 その声を合図に、織田軍の魔法部隊が一斉に杖を振る。



「ダシュト!」



その瞬間四方八方から火柱が上がった。

まだ後方にいたのに、肌にじりっと熱さを感じる。



「タラスド!」



 一人の織田軍の魔法使いが、火柱に向かって竜巻状の風を起こす魔法を唱えた。


 その瞬間、竜巻は炎を絡めとり、火災旋風となって、周りの木々に次々燃え移る。

 嘘みたいに一瞬で周りが火の海になる。




「全部燃やせ! ははははっ! 燃やし尽くせ!」




 織田様は炎の中で笑いながら、駆け寄ってくる僧兵たちに向かって刃を振り下ろす。


 刀を振るった風圧で、炎を纏った衝撃波が起こり、僧兵たちはバタバタと倒れ込んだ。



「信長あっ! 貴様、オレのお山に手を出しやがったな! 絶対に殺す! ――レダミス!」




 朱慶様の解読者は、瞬時に解読し、朱慶様は織田様に向かって杖を振るう。

 無数の光の矢が織田様にまっすぐに向かっていったけれど、織田様は刀で全て薙ぎ払う。


 魔法道具の鎧。刀も青白く光っているのを見ると、あれも恐らく魔法道具。



「レダト!」




 朱慶様は追いすがるように光の矢を一つ放つ。


 織田様がその矢を軽く振り払った時、朱慶様が方向転換し、織田様の喉元に飛び込んだ。



「レダミス!」



 至近距離で無数の矢が放たれる。



 織田様に逃げ場はない。全ての矢が、織田様に突き刺さる。



 思わず、悲鳴を上げた。

 でも、声にならずに喉にへばりつく。


 見開かれた私の目に映った織田様は――笑っていた。




「ははっ、本当に魔法道具というものは便利だな」




 織田様が纏う金の鎧に、なんの憂いもない。


 傷一つ付くことはなかった。



「くっそ! 絶対オレが勝ったと思ったのに!」



 苛立ったように朱慶様は地団太を踏む。


 私たちはようやく、朱慶様のもとに辿り着くことができた。



「落ち着け、朱慶。冷静になれ。協力して織田を討ち取ろう」


「はあ⁉ 俺が一人であいつを討ち取るんだよ!」


「朱慶。落ち着け。見ただろうあの鎧、全ての魔法を無効化する」


「無効化……」



 朱慶様は顔を顰める。少し冷静になったのか、声を荒げることはなくなった。



「そうだ。澄、さっき朱慶がしたように、いくつかの魔法で織田を畳みかけて追い詰める。射程距離まで入ることができたら、一度解読をやめてくれ」



「は、はい」


「朱慶もだ。今度は二組同時に攻め込んで織田を潰す」


「……わかった」



 朱慶様は頷いた。



「澄、攻撃魔法を使うのは恐ろしいだろうが、よろしく頼む。俺は明日、澄にいつもと変わりなく挨拶をしたい」



 その言葉に、守り袋をぎゅっと握る。


 いつもと変わりなく、私も蒼威様に、おはようございます、だとか、こんにちは、と言いたい。

 この状況を乗り越えて、そして勝って生き残って、また穏やかな日々を送りたい。


 そのためには、どうすればいいかなんてよくわかっている。



「――はい」



 握りしめた守り袋に手をかざし、魔導書の一片を呼び出す。



「解読します」



 私たちは織田様に向けて走り出す。まずは、雷の中級魔法。



「――エルジレ!」



 ドドッと地を震わせて雷が織田様に向かって落ちる。

 でも、織田様は刀で振り払う。



「シュトナジ!」



 間髪入れずに、朱慶様が織田様に向かって杖を振るう。織田様の目の前で爆発したけれど、織田様は何の傷を負うことなく、ゲラゲラ笑っている。

 次は、凍らせる魔法。

 瞬時に解読し、蒼威様に伝える。



「――イルグス!」



 蒼威様は織田様に向かって走りながら、杖を織田様に向ける。

 金色の鎧の足先から瞬時に凍りついていく。

 でもすぐに強く足を地面について氷を振り払う。


 あの鎧を纏っている限り、織田様は倒せない。

 蒼威様は一体どうするおつもりなのかしら。

 私たちと朱慶様の波状攻撃で、徐々に織田様との距離が縮まっていく。



「シュトナジ!」



 もう一度朱慶様が爆発の魔法を唱えた。

 爆発音と煙が上がり、織田様は視界を奪われる。その間に私たちはさらに織田様に近づく。



「シュト――」


「こざかしい!」



 織田様が振るった刀が、魔法を唱えようとしていた朱慶様を弾き飛ばした。



「朱慶様!」



 木に体を打ちつけたのか、朱慶様は動かない。



「朱慶は大丈夫だ。澄集中しろ」


「は、はい」



 気づけばもう織田様はすぐ傍にいる。

 大丈夫、蒼威様を信じる。私は蒼威様が頼まれたように魔法を解読する。



 恐らく、次で織田様に手が届く――。



 守り袋に手をかざし、魔導書の一片を呼び出す。



 先ほど使った水を大量に生み出す、中級魔法のウダリアス。

 速さを生み出す、初級魔法のフェイル。

 光の矢を無数に放つ、中級魔法のレダミス。



 三枚を重ね合わせて一つの魔法式に解読する――。




 これで、終わりにする!





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