3-3 手がかり探し
サラの罰の悪そうな顔を見つめる。何の策もなく、この町をどうにか救おうとしているというのだから、馬鹿だというしかない。行き当たりばったりで助けられるのは魔獣に襲われている人を助けるとか、お金が足りなくて少しだけ貸すとか、そう言った簡単な話で済むことだけだ。町がらみとなると、そう簡単にはいかない。
「情報収集という案は良いが、相手に何のメリットもなければ誰も何も話さないはずだ。少なくとも金銭的なお礼は必要だ」
そうは言っても世留の持ち合わせもそこまで多いわけではない。一人旅で食事も睡眠も必要ないという状態であれば、ほぼお金は使わないため、十分な金銭を持っていると言えたが、状況が変わればそのお金は大した量ではない。この町で、情報収集をすれば、サラが生活する分のお金はほとんどなくなることになる。ギルドの仕事を受けるしかなくなるだろう。
「お金、は私、持ってないですね。他には何かないのですか」
「無いわけじゃないが、あまりお勧めはしないな。脅しとか、娼婦の真似事なんてしなくないだろ」
「それは、、そうですね。……どこかに良い人はいるはずです。このままでは、この町自体が可愛そうなことになる木がするのです」
サラはどうにか頭を働かせているようだったが、すぐに何かを思いつく様子はなかった。世留は前からこの様子で様々な人を救ってきたという彼女の口を信用できないなと思った。治癒師としての腕はいいのかもしれないが、人を救うというには脳が足りていない。と、そう思いつつも、彼自身も大した策は思いつていない。
(さて、どうしたものか)
フェリアが情報収集をするには路地裏でお金を落とすと良いと言っていたが、最終手段にしなさいと言っていたのを思い出す。だが、路地裏という概念がない集落だ。何せ、建物は七件だけ。どれもあまり大きさも変わらない。そんなものだから、まず路地がない。建物と建物の間には大きな通路になっている。
「ねーちゃん。この町を嗅ぎ回るのはやめときな。いいことなんてねーからよ」
彼があれこれ考えている間に、彼女が我慢できずに、そこにいた人々に話しかけていた。見た目だけは綺麗な女性である彼女はそれだけで口を開く間抜けもいるらしい。その男はみすぼらしい格好で下卑た笑みと嫌らしい視線を隠しもせず、彼女をなめ回すように見ている。
「だ・が、俺にいい思いをさせてくれるなら、少しは知りたいことを教えてやってもいいぜぇ?」
もはや、ゲスであることを隠さず、彼女の顔にその気持ち悪い顔を近づけた。彼女はそれに何も思っていないどころか、情報を絵?ことができるかもしれないと目を大きくして、期待していた。男のいい思いというのがどういう意味で言っているのかわからないというのに。
「と、そこまでにしてもらおうか」
「なんだぁ、てめ。俺はこのねーちゃんと話てんだよ」
「そうですよ。私がこの方のいう、イイオモイ? というのをすれば、色々教えてくれるそうですから」
彼女はまるで無邪気な子供のような笑顔でそういうものだから、さすがの彼も苛立ってきていた。
「くひひ、そうだぞぉ。ちょっと付き合ってくれればいいんだ。お昼寝によぉ?」
男は今度は世留に顔を寄せて、下卑た笑みで彼を睨んだ。その男は生ゴミのような臭いが彼の鼻をつく。彼女はこれが目の前に来ても笑顔でいたことに理解が及ばない。
「お前、いい加減にした方がいい。あんまり調子に乗ると──」
その瞬間、相手の衣服が全て、下着も含めて全ての衣服を切り裂いた。そして、相手の肌に無数の切り傷がついて、血が流れ出す。勇者にしたことと同じだ。
「──バラバラにするぞ」
彼の顔は人間のものではない。死が目前にある。男はそう思った。ここから生きて逃れるなら何でもする。何でもやる。心からそう思えるほどの恐怖。体が震え始めた。
「わ、悪かった。悪かったよ。もう、言わない。あんたの女には手をださないから、許してくれよぉ」
みっともなく命乞いをする。元々、彼は復讐に関係ない人は殺す気はない。ただ、こういう、女性を食い物にするようなことに出くわすと、遊羽の肉体が朽ちたあの夜を思い出してしまう。あのときの、後悔と怒りが沸き上がってしまう。そして、それが目の前で再び起ころうとしているのなら、それを止めない訳にはいかない。もし、再びそれを許してしまえば、あの夜と同じ後悔をすることになるからだ。
(だが、これで、俺の悪評が広がるだろうな。そうすれば、情報を引き出すどころか、町から追い出されるかもしれない)
町から追い出されてしまえばそれまでだ。追い出されるのが、サラも一緒ならいいが、彼女だけ町の中に残してしまえば、今と同じことが起こるのは想像に難くない。
(この力で、力押しでもいいかもしれないな)
彼は本来あまり頭を動かす役割ではなかった。そういうのは遊羽の役割で、行動するのが世留。だから、彼はいい加減考えるのが面倒くさくなっていたのだ。
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