3 都には着かないけれど
3-1 次の町
道に出ると、そこにも何組が道の真ん中で夜を過ごしている人たちがそこにいた。道の左右を見ても都らしい建物は見えない。世留は自分が過ごした村からどこの方向に来たのかもわからない。少なくとも、元の道ではないことだけは確かだった。彼は彼自身が過ごしていた村と福道町の間をよく行き来していただけで、都にすら行ったことはなかった。だから、彼にはここら辺の土地勘などは皆無であったし、どこに何があるかと言う方向もわからない。方向音痴ですらない。
彼は特に検討もつけずに、適当に歩き出した。道で夜を過ごしている人の見張りが彼を見ている。森から抜けてきた怪しい二人組。盗賊には見えないが、見かけだけで判断して、警戒しない人はまずこんな場所で休むことはできないだろう。視線が気になったわけではないが、その場所に突っ立っていても仕方がないので、彼らは歩き始めた。サラは彼がここら辺に住んでいるのだから、どこになにがあるのかはわかっていると思っているため、彼に付いて行くしかなかった。
彼が向かった先は都とは正反対の方向だった。そんなこと、彼は知らないため、迷いなく道を進んでいく。
しばらく歩くと、背の低い木製のフェンスで覆われた集落に着いた。家らしきものが七件ほどしか見つけられず、都でないことは一目瞭然だ。さらに夜であるため、町の木製の門は閉じていた。朝になれば開くだろうと彼はその門の近くで大人しくしていることにした。反対方向に行けば、都があるのかもしれないと考えたが、自身がどこに居るのかもわからないまま、移動するよりはこの町で情報を得てから移動sした方が良いだろう。
「あの、これからどうするんですか」
「この町に入る。朝になれば門が開くだろうからな、ここで待つ」
「そうですか。わかりました」
「ああ、それと行動を共にする必要はないからな」
それは厄介払いと言うのだろうが、サラは自分に都合よく解釈した。可愛そうな人がいたら助けるのを手助けしてくれるのだと。彼女は彼のことを素直ではないと思っていた。
それから二人は黙ったまま、門の横でその門が開くのを待っていた。
朝日が昇り、地上を光が照らし始める。遠くの空に茜色の雲が見える。そんな時間になってようやく門が開いた。いつの間にか、世留の膝を枕にして眠っているサラ。世留は眠らなかった。彼女が眠り始めて、数分で彼の肩に寄り掛かり、肩からずれていき、ついには胡坐をかいた膝の上に頭が落ちていった。世留はよけようと思ったが、他に彼女の頭を置く場所が無かったため、そのままにした。門が開くのを待つだけなのだから、彼女の頭がどこにあろうと支障がないと判断した。そこに優しさなどはなかった。
「あ、ご、ごめんなさい。眠ってしまってました。それに、寄り掛かってしまって」
彼女は薄目を開けて、彼の顔を見上げて、自身の状況を理解した瞬間に、ばっと体を起こして、髪を手で整えて彼に平謝りする。その顔は恥ずかしいという感情一色だった。謝られた彼は特に気にした様子はなく、掌を彼女に向けて、もういいと示していた。彼女はそれを見て、それ以上謝ることはなかった。
確かに恥ずかしかったが、彼女は眠っている間、いい夢を見ていた。一度もされたことはないが、母親に頭を撫でられて、父親に膝枕をしてもらう。そんな幸せな夢を見ていた気がする。目が覚めてしまえば、その感覚も曖昧になってしまった。だが、世留の膝枕をもう一度体験したいと無意識の内に考えてしまっていて、それに気が付いた彼女は頭を少し振った。
「どうした。そろそろ行くぞ」
彼はいつの間にか立ち上がっていて、彼女を見下ろしていた。彼女は急いで立ち上がり、服を叩いて草や土を払う。そして、少し乱れている服装を整えた。それが終わると、彼は彼女を待っていたかのように歩き出す。彼女もその後ろに付いて行く。
門が開いたタイミングで、そこを潜ろうとすると、男性を呼び止められた。
「すみません。この場所に入るなら、入場料をいただいております。申し訳ありませんが、三百七十円いただきます」
「入場料か」
彼はちらと後ろにいる彼女を見た。たぶん、彼女は金銭は持っていないだろう。
「彼女と二人分だ」
彼に声をかけた男性に七百二十円を渡した。まさか、福道町でフェリアにやらされた依頼の報酬が役にたつとは思わなかった。
「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。私がお金ないせいで」
さすがの彼女も全く彼の行動に気がつかず、彼に入場料を払ってもらったことには、申しわけなさを感じていた。それに、起きたときのこともある。立て続けに迷惑をかけてしまっているのだ。そのせいか、彼女は心なしか猫背で、うつむいていた。
そんな彼女が目に入って、彼はその状態でいられるとこっちまで気分が悪くなると思った。
「気にするな。仕方ないことだ。あとで金を稼いだ時に返せばいい」
「はい。ありがとうございます」
彼女はうつむいたままだったが、それはもう、落ち込んでいる訳でない。やはり、彼は言葉足らずなだけで、優しい人なのだと彼女は彼の暖かさを胸に広がった。彼女は彼の顔を直視できなかったが、彼の後ろにくっついて町の中を進んでいく。
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