2 都への道で
2-1 彼の行く道
「もう行くの? もうちょっと仕事してもいいのよ」
フェリアが体をわざとくねらせて、世留の服の裾を掴んで引き留める演技をしていた。ふざけてはいるものの、彼にこの町にいてほしいというのは彼女の本心だ。彼が復習に人生を割くというのも本当なら、止めさせたい。だが、今の彼にそんなことを言っても、通じるはずがないだろう。それどころか、躍起にさせてしまう可能性すらある。そのせいで命を落としてしまうのは一番避けたいことだった。だから、引き留めるのもこうやってふざけてやるしかなかった。
「ああ、行くよ。次は都の方に行くから。それじゃあ」
彼は未練など無いように、一度町を出てしまえば振り返ることなく歩いていく。彼の後ろにはフェリアとギルドの受付の人もいた。フェリアは手を振って、彼を見送っているが、彼は全く振り返らない。声を上げても、彼はとうとう振り返らなかった。
暢気にあぜ道を歩いていく。森は遠いのに彼には魔獣が寄ってくる。遊羽の亡霊と協力して、魔獣を殺していく。殺した魔獣は例外なく、黒い刀に血を吸われていた。
彼が通る道を通るのは彼だけではない。町と町を繋ぐ道なのだから、彼以外の人も通るのだ。その道に魔獣だった肉塊が転がっているというのは、かなり絵不気味である。さらに、彼が魔獣を倒しているのを見ると、さらに恐怖が沸きあがるだろう。魔獣が彼に近づくだけで、バラバラになるのだ。それは彼の刀ではなく、遊羽の亡霊の攻撃だった。そして、亡霊なんてものは正常な人には見えるはずもなかった。
通行者の恐怖に気が付かず、彼はその状態で歩き続ける。いつしか日が落ち始めて、辺りが暗くなっていく。そして、日が落ちると彼以外の通行者は道の真ん中で、焚火をして休んでいた。道から外れて、森や草むらの中で夜を過ごすというのは馬鹿にすることだ。その理由は簡単で、夜行性の魔獣のほとんどは森の中から出てこない。月明かりですら、眩しく感じる性質を持つものが多いのだ。森に近づかなければ、外で夜を過ごすことはできる。ただ、その特性を持たない夜行性の魔獣もいるので見張り役は必要だった。
ただ、この夜だけは違った。道の真ん中で休憩している人達の前に、大量の魔獣にたかられている何かがいたのだ。ただ、そのたかられている何かは一瞬で、周りにいた魔獣をバラバラにした。それぞれの魔獣から血が飛び散って、辺りを赤い池を作ったが、すぐに魔獣にたかられていた何かに吸い寄せられていく。明るい間に、その光景を見ても怖いというのに、これが夜ならなおさら怖いだろう。その日、世留が通った道で夜を過ごしていた人たちはトラウマを植え付けられていた。
世留はどれだけ歩いても疲れなかったが、同じ光景の場所をただ歩き続けることに飽きていた。それでも、足は動かし続けている。早く都に行って、黒い化け物の情報をえて、復讐を完遂する。彼の生きる目的はそれだけだった。
その道中、何故か道を外れて、草むらで焚火を焚いて、休んでいる三人を見つけた。男子一人に、女子二人のパーティーのように見える。男子は黒髪でなんとも印象に残らない顔をしている。初めてあったはずなのに、どこかで会ったかのようにも感じる。彼はここらでは見ないチェストプレートを装備していて、腰には革のベルトに剣をひっかけている。緑一色のパンツに、革製のブーツ。なんともちぐはぐな装備。女子の片方は小さな体を茶色のローブで覆っているため顔は見えないが、男に話しかける声質が女性のものだ。そのローブは魔術師がよく装備するモノなので、彼女は魔術師なのかもしれない。もう一人の女子はセミロングの茶色のストレートの髪が夜風に揺れる。たれ目で茶色の瞳に焚火が揺れている。服装は神官のようで、青がベースで、首元が白い。スカートは膝の上の辺りまでで、足は高さのあるブーツを履いている。腰の辺りにはメイスが二本くっついている。見た目は回復担当に見えるが、そのメイスのせいで彼女の戦闘での役割がわからない。
焚火を囲みながら、男子の隣にぴったりとローブの女性がいて、何かを話している。男子はそれに相槌を突きながら話を聞いているようだが、男子の視線はもう一人の女子の方へと向いている。視線を向けられている女子は焚火を見つめているだけで、何かを考えているようだった。
「ん? どうかしましたか」
その三人を見ていた世留に気が付いて、男子は彼に声をかけた。ニコリと笑っているがそれが愛想笑いであるのは簡単に理解できた。
「いや、別に。草むらで夜を過ごすのは、馬鹿のすることだって教えられてたから。でも、君たちは問題なさそうだ」
「道の真ん中で休む方が落ち着かないと思いまして、こうして道から外れているんです。それに、魔獣ならこのプレートが避けてくれますから、危険はないですよ」
その男子はチェストプレートを指さしながらそう言った。
「貴方は、魔獣に好かれているみたいですね。今夜は僕らと一緒に休みませんか?」
その男子は、にこやかに彼に笑いかけた。世留は彼をじっと見て、首を振って三人のいる場所から去ろうとしたところで、神官のような女性が声を出して、彼を引き留めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます