第3話 老若男女平等主義
先日のホームセンターでは結局1人しか見つけることが出来なかった。
万引き犯は1日数人は店に来る。必ずと断言していい。
大きな店から小さな個人商店まで、万引き被害に遭わない方がレアなのだ。
どの店でも大抵は1〜3%程度万引き被害に遭うと試算されている。
残念な話だが万引きとはそれほどまでに犯す者が多いのだ。
今日は薬局の警備を任された。
駅ビルの1階路面店だ。
JR中央線の中央特快が停まる駅だけあって、人流も多い。
さて薬局で1番被害に遭うものはなんだかご存じだろうか?
答えは化粧品だ。
ここで1つ困った事がある。
俺は男だ。残念な事にこの場合には【擬態】スキルを封じられてしまう。
もちろんレベルの低いGメンならお手上げだろうが、俺は違う。
店内がダメなら店外で【擬態】を発動すれば良い。
今日は駅ビル近くで待ち合わせをしている人物に【擬態】する事にした。
ここで思いつくのは、外でタバコを吸って店内を監視する今までのやり方だろう。
だが今回は違う。
Gメン専用アイテム『携帯電話』というのがある。それを使っていく。
使い方は簡単だ。画面を見てるフリをする。
時には耳に当てて通話してるフリをするのだ。
【擬態】スキルプラス『携帯電話』のコンボは高レベル万引き犯にも通用するこの店専用の攻略方法なのだ。
これに気づくまで、どれほど見逃してしまっただろう事か...
早速店の外に待機して【監視】と【感知】のスキルを発動する。
流石に3つ同時発動はMPの消費が早い。
だがこの店ではどうしても必要なのだ。
早速【感知】引っかかった女性がいる。
すかさず【鑑定】をかける。
ーー女性
年齢:30代前半
服装:スーツ
鞄の所持有り
挙動不審
鑑定結果→万引き犯の確率10%
残念だが今回はハズレだ。
30代女は試供品の化粧品を手に取りメイクを始めたのだ。化粧下地→コンシーラー→ファンデーション→フェイスパウダー→アイブロウ→ビューラー→アイシャドー→アイライン→マスカラ→最後に口紅まで薬局の試供品で済まし店を出て行った。
どうやら今の人は【造形師】のスキルを持っていたようだ。
そう、この店では試供品で化粧していくOLが後を絶たない。あまりにも皆同じ手順でコーナーを移動する為、男の俺でも化粧する順番を覚えてしまった程だ。
店員達も見て見ぬフリをする。だがあえて言わせて欲しい。
店は商品を売って従業員を養うのだ。
試供品という言葉を今一度理解して欲しい。
さてそんな試供品造形師達が数名店を出ては入ってを繰り返す。そんな中、ふと1人の高齢女性に目が止まった。【感知】に反応した訳ではない。だが俺のシックスセンスが反応したのだ。
念の為意識を送る。
ゆっくりゆっくり移動しながら店内を徘徊していた。あまりにも遅く動く。
「まさか...俺に気づいて【思考加速】を既に放っていたのか!?」
商品を手に取る速度。持って歩く速度、更にはそれを巾着に入れる速度全てが遅かった。
老婆は【思考加速】を俺にかけた事が仇になったようだ。
巾着に入れたのは、何と缶コーヒー1本。金額にして100円の商品だ。
ゆっくりゆっくり店内を出て行く。
あまりにもゆっくりな為、思わず声をかけるのを忘れてしまった。
慌てて走って追いつき声をかける。
「あの〜おばーちゃん。巾着にお金払ってない商品あるみたいだよ〜」
「はい? なんだって?」
「お・か・ね・払っ・て・な・い・よ」
大きな声でゆっくりはっきり伝える。
通りすがる人々がこちらを凝視する。
だが高齢者でも万引きをすれば立派な犯罪者だ。
俺は差別はしない。
老若男女問わず万引きしたら断固として捕まえる。
「あ〜ついつい忘れちゃったよぉ〜。今払うからねぇ〜」
この瞬間俺の【鑑定】スキルがこの老婆の使用しているスキルを見抜いた。
【いたいけな老人】という【魅了】よりも高度なスキルを使用していたのだ。
このスキルは従業員を同情させ自らを無罪にするほど強力なスキルなのだ。
そしてこの老婆は100円の商品をあえて選ぶ事で【いたいけな老人】のスキルと『低額商品』のコンビネーションで【被害少ないし帰って良いよ】という究極スキルの1つを発動していたのだ。
この時点で【鑑定隠蔽】のスキルも発動してると気付き俺は【超鑑定】を発動した。
これは俺でも1日1回が限度の上級スキルだ。
ーー老婆
・万引き常習者
・高レベル万引き犯
・同情系スキル多数保有
・事務所に連行後本領発揮する
鑑定結果を知り、俺も久々の本気モードに突入した。
老婆は店内に入るとそのままレジに向かった。
それを俺は静止して事務所へ連行しようとする。しかし予想通り老婆は抵抗を見せた。
「あのねぇ〜歳とると物忘れ激しくてごめんねぇ。今払うから許してねぇ」
「すいません、お金は払って貰いますが一旦事務所にご同行お願いします」
「今ここで払うからごめんねぇ〜。今、人と待ち合わせしてるから時間ないのよぉ。これちょっとレジのおねぇーさん。これおいくらかしら?」
「いや、それじゃダメだってお伝えしてます。まずは事務所に来てください。他のお客様の迷惑にもなりますから」
「迷惑になっちゃうとほら悪いじゃない〜?ここで今払うからね〜。これ100円でしょ?はいこれでいいでしょ?」
「おばーちゃん物忘れ激しいんじゃないの? なんで値段まで覚えてるの?」
「いやほらこれ100円でしょ? よく買うからそこらへんでも」
「いや自販機だと130円だけどこれ。値段見て盗ったよね?」
「そんな人を犯罪者みたいに。忘れてただけよ」
「金額覚えてる人が金払うの忘れるはずないよね?」
「だからほらそれはぼーっとしてて」
「人と会う約束してる人が、薬局でぼーっとして缶コーヒーのお金払い忘れるの?」
「・・・」
「おばーちゃんの話矛盾だらけだから。俺この店の万引きGメンだから。そういうのもう慣れてるから。俺に同情とか効かないよ」
「だから払うって言ってるでしょ!!」
「じゃあもう良いよ、事務所来ないで。ここで警察呼ぶから。逃げても捕まえるよ?」
「捕まえるって警察じゃあるまいし、貴方になんの権利があるのよ!!」
「私人逮捕って言って現行犯に限っては一般人でも逮捕できるんだよ、おばーちゃん。こんな人前で警察呼ばれて連れていかれたいなら良いよ?事務所に来てくださいってのはお願いだから強制ではないから。ただおばーちゃんが警察に捕まるところみんなに見られるけど、いいならもう構わないよ。店長さん、警察呼んじゃってください」
召喚魔法【警察】の発動を店長にお願いする。
ここでのやり取りは【同情スキル破壊】というベテランGメンだけが保有するスキル発動に必要なプロセスなのだ。
レジの女の子は後日こう語っていた。
「優しそうなおばーちゃんで最初同情しちゃったけど、あんな風に豹変するってやっぱり犯罪者なんですね」
ここで伝えておく。
犯罪者が捕まった場合の心理は『逃げの一択』なのだ。全スキルをフル稼働させて逃げ道を探る。
お年寄りだろうが若者だろうが、優しそうに見えようがお金持ちに見えようが『万引きは犯罪ですっ!』
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