竜と人と
シヨゥ
第1話
人間に飼いならせないものはいないのではないだろうか。そんなことを騎竜の訓練を見ながら思ってしまう。
あの生きる災厄と言われた竜達が騎士の手綱と掛け声に合わせて飛び回っているのだ。
「驚かれましたか?」
この訓練の見学に招待してくれた老騎士が声を掛けてきた。
「はい。とても驚きました。村では触れてはならないものとか、生きる災厄とか言われた竜があんなにも従順とは」
「たしかに野良の竜は気性が荒いですからな。ですがあの子達は違う。生まれたときから騎士達とともに兄弟のように育てられましたから」
「なるほど。だから人に対する恐怖がないのですね」
そう返すと老騎士が驚いた顔をする。
「なにか変なことを言いましたか?」
「いやこちらこそ失礼しました。まさか竜が人を襲う理由をご存知とは」
「当て推量ですよ。何度も竜と対峙していると自然とね」
「竜を知る者という名は伊達ではありませんな」
「いえいえ」
「私は知らなすぎるが故に足を失いましたからな」
コツンと老騎士は義足を鳴らす。
「命があるだけマシですが」
「そうですね。私達は竜と隣り合うために常に生と死の狭間にいる」
「たしかに」
「だから竜に魅了されるのでしょうね。生と死は人間の根源的な部分ですから」
「もっと安全に生きる術もあるというのに恥ずかしい話です」
「その通りですね」
話はそれっきり。老騎士とふたり飽きるまで竜を見上げ続けた。
今まで見たことのない在り方をする竜達。その姿を目に焼き付けておこう。何となくそう思ったのだ。
竜と人と シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます