いちご

〈ハルト視点〉










祖母「保冷剤入れていった方がいいかもね」






ハルト「ちょっと日差しあるからね…

  外で食べるし一個入れて行こうかな」






祖父「洗って持っていくのか?」






ハルト「今日は外でたべるから」






祖父「またバイト先の皆んなで集まるのか?

     よく飽きないな?笑」





ハルト「ほんとだね?笑」






成泉達も俺がじーちゃんと野菜を作っている事を

知っていてたまにバイト先に持って行って

皆んなでまかない料理にして食べたりしていた






祖父「そのままバイトに行くんだろ?」






ハルト「うん、今日は12時過ぎには帰るよ

  だから給湯器はつけたままにしてて」






ばーちゃんにそう伝えて

保冷剤を入れてもらったバックを受け取り

「行ってきます」と出かけた







電車に揺られながらいつもの街並みを見て

「変わらないな」と呟いた…





(・・・・あの日からもうすぐ5ヶ月か…)





ヒナが俺の前から消えて

どう過ごしていいのか分からないと思っていても

1日、1日とカレンダーの日付けは変わっていき

この電車から見える景色も…

枝だけだった線路沿いの木が今では

綺麗な若葉の色へと変わっていた…





そう…冬から春へと季節は変わったんだ…

でも、ある物は何一つ変わってはなく…

去年の今頃もこんな景色だったなと眺めた…





手の中にあるスマホへと顔を向けて

去年と変わってしまっている〝もの〟

もあるなと顔を上げてまた窓の外へと顔を向けた…







あの日ヒナは俺のポケットの中の

プリクラだけじゃなく

俺のスマホの中にあった

ヒナとの写真や動画の入っていた

ファイルも消してあった…





あればいつまでも俺がソレを見て

ヒナの事を忘れないと分かっていたからだろう…










「はーちゃん、変な写真ばかり撮らないでよ…」






ハルト「えぇ?へんな写真?」






「寝起きとか…ゲームしてる時とか…

  部屋着だし、スッピンなんだから

  絶対に友達に見せたりしないでよ!!」






ハルト「ヒナのデータはファイル分けてるし

  ロックかけてるから見れないよ…笑」






「そんな事できるの?」






ハルト「ヒナは本当にスマホ使いこなせてないよね?

  ロックはね…俺の人生で1番幸せな日!笑」








あの人は本当に機械ダメだったなと思いながら

保冷バックからタッパーを取り出し

朝畑で採ったイチゴを口に頬張った






ハルト「・・・・練乳いるかな…」






甘いイチゴも好きだけど少し酸っぱいイチゴに

練乳をたっぷりつけて食べるのが1番好きと

言っていた事を思い出し

手の中のスマホに顔を向け

画面の中でイチゴを食べているヒナの顔を見た






ハルト「フォルダの話は覚えていても

  バックアップの話は理解できてなかったんだね…笑」



 



「ちょっと!勝手に取らないでよね!」






イチゴ狩りで隠し撮りをしていたヒナの

動画を見ながら「ふっ」と笑い

顔を上げると5歳位の男の子が

少し小さい女の子の手を握って立っていた




兄妹かなと思い「おいで」と手招きをすると

様子を伺うように近づいてきて

タッパーの中のイチゴを見ていたから

「食べる?」と聞くと女の子の方が

大きく頷いてイチゴを口に入れてあげると

あの日のヒナの様に頬を高くして笑っていた





このイチゴは特別で…

ヒナの為のイチゴだったから

成泉達や友樹達にも…

誰にもあげるつもりはなかった…






(・・・・だけど…)



 




「ん!?下の赤いイチゴは食べちゃダメよ!」





ハルト「・・・・なんで?」





ヒナは上のイチゴしか食べなかったから

下のイチゴに手を伸ばしたら「ダメ!」と言って

後ろから来た家族連れの方に顔を向けて





「せっかくイチゴ狩りに来てるんだから

  自分で採って食べたいじゃない!笑」





そう言って少し背伸びをして

イチゴを採っている子供を見て笑っていた

ヒナを思い出したから…



 



( きっとアナタならこうするから… )








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