Play5♨「寄り道」

 装備を揃え、鉱山を後にした≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫一行は、街へと向かうための山道を歩いている。

 この山道は、周囲の森に迷い込まないため整備された道であり、狩りに慣れていないタイニーたちにとっては生命線だ。

 裸装備から革を主体にした防具に身を包む羊飼いは、どことなく機嫌よさげに先を行く三人の後に続いている。


♨『おほー、やっぱ革装備は安心感が違うぜぇ!』

☀『サクラちゃんは優しいねー。何気、自分と同じランクの装備を与えてるし』

✿『そうでしょ。優しいでしょ。ぬるはちゃんと優しさ返してね』

♨『うげ、サクラは結構根に持つタイプだもんなぁ。そういうの女子としてどうなのかなぁ』

✿『ん? 何か言った? 男子として終わってるぬるさん?』

♨『そ、そんなことよりっ! クロさんの装備だけなんかランク違くないっすかね!?』


 近寄って来た街守りから逃れるように、羊飼いは鳥撃ちの隣へと歩み寄る。

 鳥撃ちはまるで、茶色いカナブンの着ぐるみを着たような装備を身に着けていて、自慢するようにその場で腰に手を当て胸を張った。


☘『甲装備。カッコいーでしょ。これは乙だけど、甲のバージョンもあるらしいからそっちも早く欲しい』

☀『確かそれ、熟練度20相当でしょ? クロちゃんだけ飛びぬけた装備だねー』

✿『それ言うおひーも、防具捨てて、めっちゃよさげな武器作ってない?』

☀『あ、気付いた? クロちゃんには負けるけど、これも熟練度15ぐらいまではもつと思うよー』

♨『さ、サクラママぁ、ボクも欲ちい……』


 山羊追いが右手を上げると、そこには昆虫の殻を使ったようなグローブが付けられている。

 それを見た羊飼いは街守りを一瞥して、その場で四肢を投げ出して転んだ。街守りはその顔面を踏み抜いて進んでいく。

 それからしばらく歩いていると、唐突に羊が道を逸れて森の方へと入っていった。


♨『お? どした羊?』


 羊が向かった方を見てみると、そこから吹き出しが飛び出てくる。


「なんかあるでー」


 覇気のないボイス。何かを発見して知らせてくれているようだった。


♨『なあ、オレの羊がなんか見つけたみたいなんだけど、行ってみね?』

✿『へー、羊ってそういう事もしてくれるんだー』

☘『まあ、ステ底辺にはそれぐらい出来ないと釣り合わない』

♨『え!? 羊飼いってステータス底辺なの!?』

☀『さすがに数値では薬生みの方が下回ってるけど、あれの特殊技能ってかなり優秀らしいから、全体的には羊飼いが最弱だね』

♨『マジか……。ま、まあ、オレはモンスターズならスライム、ディスガイアならプリニー育てる派だから。むしろ縛りプレイみたいで楽しめるがな!?』

☘『ザコぬる』

♨『それはちょっと違くない!?』


 四人はしばらく足を止めているが、その間もずっと羊が覇気のない声が届いてくる。


♨『今更だけど、あの羊の声、なんかキモイんだよなー』


 ようやく従者の声に従って、羊飼いは草を掻き分けて森の中に入っていく。


 ——森


 フィールドが切り替わり、画面右下に表示される。BGMも変わり、若干の緊張感が漂った。

 羊が立っていたのは、草を掻き分けたすぐ側。大きな木の根元でキラキラと輝くエフェクトにフンフンと鼻を鳴らしている。

 それは、素材を採取出来るポイントだ。


♨『お、採取ポイントじゃん! もらいー!』

✿『あ』


 羊飼いが目先に眩んで飛び出した直後。


♨『鹿っ!? うお!?』


 突如横合いから現れた鹿によってその小さな体が吹き飛ばされた。

 画面上部、緑色の体力ゲージが一気に四割減少する。


☀『熟練度8かー。ぎり行けるか?』

☘『経験値ー』


 鹿の体はタイニーたちよりも若干大きい。その頭上には緑色のバーと≪鹿・熟練度8≫と表示されている。

 同盟の平均熟練度が3に届かないというところ。かなり強敵だ。

 しかし頼もしい装備の山羊追いと鳥撃ちは即座に戦闘態勢。颯爽と山羊追いの拳が鹿に突き刺さり、鳥撃ちは矢を番えた。

 羊飼いが起き上がろうとしていると、羊が駆け寄って来る。


「大丈夫かいな? 草うま」


 主を心配すると見せかけて、足下の草を食べ始めている。こういう仕様だ。


♨『よっしゃ羊、オレ達のコンビネーション見せたるで!』


 羊飼いは羊に向かってアイコンタクトをするが、羊はよく分かっていない様子で首を傾げ、隙をついて足元の草を食べている。

 そんな茶番をしている間に、山羊追い、鳥撃ち、街守りは鹿との戦闘を続けていた。


✿『うちタゲとろっかー?』

☘『いや、あたしほとんどダメージ通らないから、正面行く』


 カナブンに手足が生えたような鳥撃ちが鹿の目の前に出る。鹿が振り回す角を受けるが、体力ゲージはごくわずかにしか動かない。その至近距離で矢を三連続で放つ。トトト、と鹿の体に突き刺さった矢は、緑色のゲージを半分消滅させた。


☘『最後は強射で決めたいから、ちょっとお願い』

✿『りょーかい』

☀『スイッチだね』


 鳥撃ちがバックステップで後ろに下がる。それを追いかけようとした鹿の目の前に街守りが盾を構えて塞ぎ、動きを止めたところで山羊追いが顔面を殴りつけた。

 残り体力3割。


♨『お、オレの出番なさそう……』


 羊飼いが自分の体力を気遣って足踏みしていると、山羊追いと街守りの攻撃が鹿の前足に入り、体力ゲージが2割へと減少していった。


☘『たぶんもう行ける』


 同時に街守りと山羊追いが鹿の前から離脱する。すると、鹿の眼前に現れるのは、光を放つ矢を構えたカナブンだ。

 とっさに危険を感じた鹿は、そこから逃げ出そうとしたが、それよりも早く光の尾がその体を貫いた。


「キェーッ!?」


 鹿が鳴き声を発してその場に倒れる。その姿はすぐに透けて、素材を遺した。


♨『鹿ってあんな声で鳴くんだなぁ……。あ、アイテム回収しよ』

☀『いや、逃げた方が良いね』


 結局何の見せ場もなかった羊飼いが落ちた素材を拾おうとした時、ズズンと画面が揺れ、小さな体を影が覆った。


 ——≪熊・熟練度12≫


♨『回収したうえで逃げ切ってやるぅうう!』

✿『次は買って上げないからねー』


 ——≪鹿の角・悪×2を採取しました≫≪獣の毛皮・劣を採取しました≫


 羊飼いが採取を終えると同時、熊の腕が振り下ろされる。緊急回避を行った羊飼いだが、僅かに接触。それだけで残り体力が一割を切った。


♨『羊ィイイイイイッ!』


 羊飼いは立ち上がり、笛を吹き鳴らす。それにも構わず襲い掛かる熊だったが、その巨体に潰される直前、主を羊が背中に乗せた。


「全く、羊使いの荒いご主人や」


♨『や、やだ! この羊イケメン!?』

☀『ってやば、こっちにタゲ来てる』

☘『うーわ、押し付けかー』

✿『とりあえずうち障壁使うよ』


 羊飼いは俊足でどうにか逃げ切るも、そのヘイトは仲間へと押し付けられ、街守りが掲げた盾によってどうにか一命を取り留める。

 そんな様子を安全圏から眺めていた羊飼いは、反省するようにそっと羊から降りた。


♨『アイテム献上するので許してください……』





——TIPS——

【羊】

 羊飼いの従者。AI機能で冒険をサポートしてくれる。羊飼いの特殊技能≪騎乗≫使用時以外は、勝手に判断して攻撃をしてくれるが、基本的に臆病者。

 どことなく覇気のない声とよく見れば死んでいる目が特徴。なんかちょいちょい喋る。

『モーション』

・待機時…草を食べる。寝る。

・羊飼いのアクション時…周りをまわる。その場でジャンプする。

・採取ポイント発見時…顔を上げて「なんかあるでー」と発言。

・羊飼い死亡時…リスボーンの間、倒れている体をじっと見つめる。時々頭にかぶりつく。

・体力減少時…死んだふり(敵が近くにいる場合)。寝る(体力が回復する)。

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