Play2✿「結成」

 肩ほどまで伸びたサラサラな金髪の≪街守り≫——≪サクラ≫がテクテクと街の中を散策している。

 その装備は見るに明らかな初期装備の≪布の服≫と≪木の長剣≫に≪木の盾≫。

 名前の右側に表示される≪熟練度≫は2にランクアップしているが、まだまだ駆け出しだ。

 不意に彼女は足を止める。その先には様々なアイテムを譲ってくれる≪品譲り≫のタイニーが店を構えていた。


 ——品譲り・メイ

「いらっしゃい! 今日はこれだけの品があるよ!」


 名前の表示と共に、革製のオーバーオールを着た快活な小人が定型文を発すると選択肢が現れる。


 ——譲ってもらう/やっぱり用はない/友好度を上げる


 すぐさま≪友好度を上げる≫の選択がされ、メイが大きく目を輝かせた。


「え!? むしろ君の方から譲ってくれるのかい!?」


 所持品のリストが出現し、そこから無造作に数量の多い素材を与える。

 するとメイは、頭上にハートを浮かばせて愛らしい笑みを見せてくれた。


「ありがとう! 次に君が来る時までにはもっと多くの品を集めてみせるよ!」


 ——品譲りの友好度が上がりました。


 メッセージと共に簡素なメロディが鳴った。

 その背景ではメイが嬉しそうにニコニコとしている。しばらくその顔が表示されたまま画面は止まった。


✿『ふふ、可愛い』

♨『だーっ! ようやくチュートリアル終わりぃいッ!』

☀『遅かったねー』

♨『うるせー裏切者! そいじゃあ早速一緒にプレイしようぜ!』

☘『まずは同盟組まないとだよね』

✿『同盟って、ギルドみたいなもんだっけ? ならさっさと募集駆けてー』


 お気に入りのタイニーを愛でるのは切り上げ、街守りは歩き出す。向かうのは街の中央に位置する大きな建物——集会所だ。

 足を踏み入れたそこには、様々なタイニーが雑多に集まっている。それらの動きに統一性はなく、個性豊かな名前を頭上に浮かべていた。

 集会所には街の重要機能が集まっており、これから冒険を始めようとする者達が一堂に会している。オンラインゲームならではの光景だ。

 そんな中で、向き合う四人のタイニー。

 画面中央に街守り。正面には羊を連れた羊飼い。右手には角を生やしたフードを被る≪山羊追い≫に、それと相対する弓を背負った≪鳥撃ち≫が、お互いの姿を捉え、会話でもしているかのように足を止めている。


♨『おーし全員集合だな! ……って、お昼はnoonって誰だ?』

☀『俺だよー』


 山羊追いが挙手のアクションを起こす。操作タイニーには他プレイヤーと交流するため、いくつか決められた動きが出来るようになっている。


♨『お前、また名前変えたのかよ……。しかも相変わらずふざけたネーミングセンスだし』

☀『やっぱ、新鮮な気持ちでプレイしたいからさー』

☘『それなら今から、おひるんと呼ぶ』

✿『じゃーウチはおひーって呼ぶねー。おひー以外はいつも通りだねー』

♨『なーんかキャラメイクも大体予想通りだなー。この、いまいちバランスの悪いパーティとかまさに』


 集まった四人のタイニーはそれぞれ好き勝手にアクションを行う。

 羊飼いはジャンプを繰り返し、山羊追いは万歳を連発。鳥撃ちはその場で寝ころび、街守りは拍手や頷きに座り込む手当たり次第に試していた。


☀『俺の山羊追いはバリバリ前衛職で、ぬるめの羊飼いも基本的に前で戦うし、サクラちゃんの街守りはタンクだもんねー。クロちゃんの鳥撃ちは遠距離だけど物理かー』

✿『あっははー。出たがりばっかじゃーん』

♨『お前もな! てかせめて誰か回復職やれよー』

☘『魔法も欲しかった』

☀『まーやっぱ好きなのじゃないとねー』

✿『ぬるー、今から3つアカウント作って残りの肩書きでログインしてよ』

♨『4キャラ操作とかアホぬかせ!』


 しばらく適当なアクションを続けていると、画面上部からメッセージが降ってくる。


 ——≪ぬるめ≫さんから≪同盟・ぬるめと愉快な仲間達≫への正体があります。加入しますか?

 ——はい/いいえ


 迷わず≪いいえ≫を選択する。


♨『……全員拒否、っておい!? 何が不満だよ!』

☀『福利厚生』

✿『おきゅうりょー』

☘『はたらきたくない』

♨『えぇっと、オレからの招待、求人か何かと勘違いしてます……?』

☀『まあさっきのは冗談だとしても、同盟の名前がなー』

✿『ふざけるにしてもありきたりだよねー』

☘『センスない』

♨『じゃ、じゃあお前らで考えろいッ!』


 それからあまり画面に変化はなく10分が経過した。


 ——≪ぬるめ≫さんから≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫への招待があります。加入しますか?

 ——はい/いいえ


 新たなメッセージに対して今度は≪はい≫を選択する。


♨『なーんか闇鍋感のあるネーミングになっちまった……』

☀『絆が感じられるねー』

✿『やっぱ、ぬるいの後に読点打たない?』

☘『もっと明確にスラッシュの方が良いと思う』

♨『壁を作るなよ! お前らいつだって俺だけイジメるっ!』

✿『あっははー』


 泣き出す羊飼いを置いて、街守りが拍手を始めると鳥撃ちと山羊追いも続いて手を叩いた。


♨『……まあこれで、ようやく始めれるな』


 遅れて泣き止んだ羊飼いも手を打ち鳴らす。すると、彼が飼いならす羊がその場でくるくると回りだした。

 こうして、≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫は結成された。





——TIPS——

【同盟】

 一人の≪肩書き≫持ちのタイニーの下に集まる≪コネクション≫とは違い、複数の≪肩書き≫を持つタイニータイチによる共同体。≪街≫や≪港≫などの運営も≪同盟≫によるもの

 プレイヤーは複数の≪同盟≫に参加する事も可能だが、行動時には所属を設定する必要があり、並行して複数の≪同盟≫での行動をすると言った事は不可能。

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