第233話 感情の区分

 刺身を食べていると『クロさん』を思い出す。

『チョビさん』は刺身を食べないが、不思議と刺身を見ると、うるさいくらいに鳴く。

 最初は『早く食べて自分を撫でろ』とでも言っているのかと思っていた。

 事実、僕が食べ終えるのを待って必要以上に甘えてくる。


「もしかして…」


 猫には悲しいと感情はないのだそうだ。

 僕も、きっとない。

『寂しい』『不安』はあるのだが『悲しい』は良く解らない。

 葬式・告別式の場でも『悲しみ』は感じないのだ。

 僕の中では『不安』『寂しさ』『悲しさ』を区別できないのだろう。


 僕の手にすり寄る『チョビさん』も同じなのかもしれない。

『クロさん』を思い出して寂しくて鳴いているのかもしれない。


 僕も猫も『悲しみ』を知らないわけじゃない。

 区別できないだけなんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る