名称未設定な関係

波野

第1話 あの日、何かが始まった

きっかけは、私の失恋だった。

どうしようもないクズな男にフられた私は、

"クズな男"を受け入れた自分を呪い続けていた。


あぁ、どうしてこんなに悲しいんだろう。

わかっていたはずなのに。


止まらない涙。

時刻は丑三つ時。


"あの人"としっかり話したのは、この時が初めてだった。

止まらない涙を強制的に止めるべく、

また、毎日の通話がなくなった寂しさを埋めるために

サークルの通話チャンネルに入ったのだ。


「こんばんは、何をされているんですか?」

「そちらこそ、なぜこの時間に?」

「実は今、ふられちゃって、どうしようもなくて」


つらつらと話し続ける。

あの人はチャンネルに1人しかいなかったから、

1対1で夜中の通話が始まった。


私とあの人は同じ年齢で、同じサークルに所属している。

大学は違うし、住んでいる場所も距離が離れてるから会ったこともない。

会えるかもわからない。

顔も知らない、声だけのあの人。


私の失恋話、どうしようもないクズな男。

あの人の失恋話、4月に終わった切ない恋。

誰かに理解されるか曖昧な恋、の話。


話をし続け、日は昇り、

私は生まれて初めて眠れない日を経験する。



季節は夏の終わり

眩しい日が私を照らす



徹夜をクリアし熱に浮かされた私のぼんやりとした頭の中、

今でも思い出すのは、

多分その日から

幾分かあの人を意識していたのではなかろうか。ということだけ




"優しい人"




そう、あの人は優しい人だった。

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