珍妙なる怪異物語

ム月 北斗

二宮金次郎像の未来像

 ここに置かれてはや50年、風が強かろうが雨が強かろうが、僕はここで子供たちの勉学に勤しむ姿を見てきました。


 どうも、『二宮金次郎』です。はい、あの二宮金次郎像の二宮です。


 今日も薪を担いで勉強しています。子供たちも同じようにランドセルを担いで学校に来ています。時代は違えど、案外同じようなものですね。


 さて・・・話は急に変わりますが、いま、僕の前にこの学校の校長先生と、どこかの業者さんらしき人物がいて、何かを話し合っています。


「校長先生、ホントにいいんですか?」

「ええ、構いませんとも。」


 なんかサスペンスドラマでありそうな『ウラ話』っぽいですね、僕ワクワクします。


「分かりました、では後日こちらの金次郎像、”撤去”工事致します。」


 ・・・え?聞き間違いかな?”撤去”って聞こえたんだけど・・・。


「ええ、”撤去”工事、よろしくお願いします。」


 聞き間違いじゃなかった・・・。マジの”撤去”だ・・・。


 なんで・・・どうして・・・。僕は何も悪いことしてないじゃないか・・・。


 そりゃあ、一部の『金次郎像』はさ、怪談物のアニメや漫画で怖い物として描かれてたりするけど・・・。少なくともこの学校では僕に関する怪談話なんてないじゃないか!


 動くことの出来ないこの体は、話し終えて帰っていく二人の後姿を見送ることしか出来なかった―――






 後日・・・


 ヘルメットを被った業者さんと校長先生が僕の前に現れた。


 あれから今日まで、これまでのことを色々と思い返していた。


 あれだ、卒業前の学校での思い出の日々を思い返すようなもんだ。


 僕の前の鯉の飼われている池に餌を撒く子供たち、グラウンドで部活する野球部とサッカー部による占有領土の奪い合い・・・。


 見てきたものが全て美しい物とは限らないけれど、子供たちの成長には繋がっている素晴らしい物ばかりだ。


 悔いは無いです。どうぞ撤去しちゃってください。あぁ、せめて僕のような『石物』を取り扱ってくれるリサイクルショップに置いてくれるとありがたいですね、山の中の適当な所とか勘弁、マジ勘弁ですわ。


「それでは工事に取り掛からせてもらいます。おーい!いいぞー!」


 地鳴りを響かせて重機が迫ってくる・・・きっと僕はロープかなんかで吊り下げられてトラックにでも積み込まれるんだろう。今よりずっと高い視線か・・・今の世界はどんな感じになってるのかな?僕は、迫る重機のクレーンの先端を動くことの無い目で見上げた―――


 ”鉄球”が吊り下がっていた・・・


 はい、真っ黒で、明らか重いって感じの鉄球です・・・


 え・・・撤去って、そっち?移動的な意味じゃなくて、この世から”さよなら”な感じなんです?


 PCでフォルダ作ってそこに入れるんじゃなくて、ゴミ箱に入れて完全消去な感じなんですか?


 ターミ〇ーター3の『抹殺完了!』なんですか・・・。


「でも校長先生?なんだってまた、金次郎像の撤去なんてするんです?」


 そうだよ校長!僕が何したって言うんだよ!!


「いやー、それがですね。PTAの会長さんから、『金次郎は時代に合わない、歩きスマホを助長させているから危険だ!』って言われたものでしてね。」


 お前の意志じゃないんかい!!なに簡単に決めちゃってるんだよ!お前校長だろ⁉


 だいたい、何が『歩きスマホ』だ!僕の時代にスマホなんてねーよ、バーカ!!


 それに、僕の時代じゃこうでもしないとその日の晩御飯が食べられるかどうかの時代だったんだよ!今みたいに国の倉庫に大量に米が余ってたり、マスクが余ってたりとかじゃなかったよ!!


 それなのになにが”時代に合わない”だ!時代に合ってないのはそいつらだろうが!どうせ頭の中、『ゲームやアニメは体に良くない』っていう時代遅れの考えしか思い浮かばないんだろ!!


 あー、fuckin’ shitクソが!!気づけば鉄球があんなにも高いところにありやがる!


 校長テメー覚えとけよ!お前が子供の頃ここの鯉にちょっかい出して遊んでたら、指嚙まれてびっくりして池に落ちてベソかいてたの覚えてっからな!みんなに言いふらしてやる!!


「ちょっとちょっと校長先生!あんた何やってんの!?」


 慌てた様子でスーツ姿の男が走ってきた。この人は確か・・・役所の人だったかな?


「何って・・・御覧の通りですよ。の撤去ですよ。」


 今テメー『これ』っつったな?マジで覚えとけよ?!


「そんな話、こちらは聞いてませんけど?!」


「聞くも何も、話す必要ないじゃないですか?」


「必要ですよ!!こちらの金次郎像はね、の所有物じゃないんですよ!!」


 ・・・はい?どゆこと?


「”市”の所有物ですよ!先代の校長から聞いてないんですか?!」


「・・・あ、思い出した!そんなこと、前の校長から聞いてたんでした!!」


 慌てて校長クソったれが業者の工事の手を止める。何とか僕に鉄球が落とされることは回避された・・・。






 こうして、僕は再び学校で生徒たちの成長を見届ける仕事に戻ることが出来た。


 グラウンドでは新たに”陸上部”が加わったおかげで、野球部、サッカー部、陸上部の三つ巴の戦いが繰り広げられていた。


 そして僕にはもう一つ、仕事が増えた。


 毎夜毎夜、校長愚か者の夢枕に立ち、恨み節を唱えるという仕事が・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

珍妙なる怪異物語 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ