短編1

上の空

愛情

 「彼女」は「子供たち」をとても愛していた。

 彼女の子どもたちはみんな生まれたばかりの頃からとても元気がよかった。少しやんちゃすぎるきらいはあったものの、それでも彼女にとっては愛しい我が子たちであった。

 「その子」がひどく繊細だと彼女が気がついたのは、子供たちが随分大きくなってからのことだった。まわりの子らと比べてみてもその環境にとてもじゃないが馴染めないのではないかと、一時は思ったほどだった。

 しかしその子はとても賢かった。

 ほかの子たちに出来ないことを何でもないようにやってのけた。手先が器用で物を扱うのが上手かった。ほかの子たちが怖がる物にも平然と近づいていく度胸があった。そして好奇心がとても旺盛だった。彼は好奇心の赴くままどんな遠くまでも出かけていった。

 この子が繊細な子だという考えはまちがいだったのではないか。彼がいよいよ大きくなるにつれほかの子たちに対しても暴力をふるうようになったのをみて母はそう思った。

 母のその懸念はまもなく彼女自身の危惧へと変わっていった。ついにその子は母に対しても暴力を振うようになったのだ。

 母は涙ながらに自分がどれほど彼を愛しているかを訴えた。しかし依然として彼の暴力や横暴は止むことがなかった。

 その子がもはや彼女にもほかの子たちにもどうしようもないほどに大きく強くなっていくのを間近に見て、彼女の身体も意志もひどく衰えていった。もはやその「個」としての形を保っていることができないほどに。そして──。


──統一銀河連邦宇宙軍第8師団辺境方面軍第五艦隊旗艦から発された通信──

タイヨウケイダイサンワクセイ、ツウショウ「チキュウ」ニトツジョオキタナゾノホウカイゲンショウニタイスルチョウサハナオケイゾクチュウ、シカシイマダゲンインラシキモノハハンメイセズ……

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