3-3
いつまでも体育館傍で覗き見するのは流石にマズイので、用がない俺は体育館から離れ、そのまま校内を出ることにした。
俺はポケットから携帯電話を取り出し、あの男へと電話を繋げる。
『もしもし、神宮寺か。どうした、電話なんて珍しいな』
スピーカから流れるよく知った男の声。
たしかに家族でもない人間に電話を掛けること自体珍しい、俺はそう思いつつ、
「ああ、突然で悪い。教えてほしいことがあってな、時間くれるか?」
『ああ、別にいいぜ。ヒマだし。で、どうした?』
電話の相手は――篠宮天?。人間関係で困ったことを解決していく部のトップである男、数々の生徒の事情には詳しい。いわゆる情報通である。
だが単なる情報通よりも、俺が知りたい彼女らとの間にとある繋がりが篠宮天?にはあった。
「――――黒川紅涼のことで訊きたいことがある、いいか?」
『黒川? ああ、いいぜ』
「お前って黒川とは中学が一緒だったんだろ?」
鍵探しの際、黒川本人がサラッと口に出したのは覚えている。
『ああ、そうだけど? んー……そんなにしゃべったことはないな。知り合いってほどじゃないけど、それでも大丈夫か?』
「ああ、構わん。……その、黒川って中学時代はどんな人間だったんだ? 友達がいないってことはないだろうけど、クラスの中心だったとか、そんなことってあったか?」
『……うーん、今と変わってないんじゃね? 中心で目立つタイプではないな。ぶっちゃけ言うと、女版の神宮寺ってカンジか? 目立たないし孤立してるのも見たことない。だけど女子特有の群れをつくることもないな』
女版の俺、という評価はなかなか可哀そうな表現だ。
『あ、でも、黒川ってかなりのルックスだろ? 結構な男子が……、学年とか関係なく告ってた。たまたま校舎裏を通りかかったら黒川が告白されてた、なんてのはザラだ。ハッ、その辺りは神宮寺と真逆だな』
それはオメデタイ。
「男慣れはそんなにしてなさそうだけどな。俺の前では純情を演じていて、実は裏で……、ってことはありえそうか?」
『今は知らんけどそれはありえんだろ。たしか寄ってきた男は全部振ってるハズだ……って、今もか。それが告白ラッシュに拍車を掛けてるんだろうけど』
「そうか。男嫌いって訳ではなさそうだけどな。それと、他に何か目立つようなことはあったか?」
『……そうだなぁ。頭はマジで良かったわ。学年順位でも一桁がほとんど。問題は絶対に起こさない、模範的優等生だよ』
ざっと聞いた限りでは、黒川紅涼というキャラクターは中学でも高校でも不動のものらしい。意外と人を弄ることが好き、という点は篠宮から聞かなかったが。
『他に訊きたいことはないか?』
「ああ。もう一人知りたいヤツがいる」
そう、本題はどちらかといえば黒川よりも――――、
「伏見咲夕って知ってるか? 栗色のロングでバスケが上手い女なんだけど?」
『……伏見? ああ、伏見も中学一緒だったな。知り合いなのか?』
読みはビンゴした。やはり黒川と伏見の間には、以前から何かしらの繋がりがあった。
「黒川も伏見もだけどさ、中学が一緒で小学校は一緒じゃなかったのか?」
『あの中学校は二つの小学校の生徒が一緒になるんだよ。黒川と伏見は俺と違う小学校に通ってたんだろ』
なるほど、そういうことか。
「最近なんだけどよ、その伏見って女に絡まれてな。で、伏見の件で気になることがあって。分かる範囲でいい、中学時代の伏見をざっと教えてくれ」
『……とにかく目立つ人間だったな。ちょうど今で例えれば、あの星ヶ丘花蓮くらいには目立ってた。まさに華がある、って印象の女子だった』
たしかに、星ヶ丘花蓮と伏見咲夕は目立つ人間だ。だがしかし、
「星ヶ丘と同じベクトルで目立つ人間だったのか、伏見咲夕は?」
数秒の沈黙が流れる。
『友達も多くてクラスでも中心的存在だった。勉強は苦手らしいけど運動神経は凄かったぞ。女子バスケ部キャプテンで全校集会の度に表彰されてた気がする。まぁ、優等生の部類だよ――――表ではな』
「……オモテ?」
『部活でも表彰の常連で友達も多くて、教師に対しても愛想が良かった。なのにな、流れる噂は悪いものばかり。嫉妬で流されたとは思えない節もあった』
「……どんな噂だ?」
『友達の多さを利用して気に入らない人間を孤立させたとか、バスケ部で自分より上手い人間を苛める……、とかは聞いた。どれも決定的な証拠はないんだけど……』
「そうか。噂は本当だったんだろうな。アイツを見てりゃあ分かる」
『さっきも言ったけど、伏見はクラスの中心的存在だった。だけどな、伏見に好意的な人間と同じ数の人間がアイツを嫌ってたんだよ。興味ない、って人間は少なかったんじゃないか? 好きか嫌いか、極端だったよ』
「ちなみに、篠宮はどっちだった?」
数秒の沈黙が流れ、
『……中三の頃、伏見が俺の期末テストの結果を覗き見してきたんだよ。そしたら、篠宮のキャラに合ってない順位で満足しちゃってんの? ……って。テメェ失礼だろコラァ! とは思ったね。ぶっちゃけ調子乗ってて嫌いでした』
「そうか」
『話はこれで終わりか? もっと訊きたいことあるか?』
「ああ、最後に頼みがある。ちょっと聞いてくれないか?」
俺は篠宮に一つの頼みを話した。
『……――ちょうどヒマしてたところだ。了解、やっとくよ』
「サンキュー。付き合ってくれてありがとよ」
『補習頑張れよ。ま、無理はすんな』
ということで、俺は通話を打ち切った。
気が付けば学校を出てかなりの距離を歩いていたようだ。
俺は携帯電話をポケットに突っ込み、何となく背後を振り返ってみた。校舎の姿はもう見えない。
……別に、黒川紅涼と伏見咲夕の過去と関係を知ったところで、俺が二人にその事実を問い詰めようだなんて思わない。ただ何となく……知っておいたほうが良いと俺が判断したから篠宮に話を訊いただけだ。
たったそれだけのこと。
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