かつて誰よりも主人公だった元・野球男のラブコメ ―微笑みの氷の女王―

安桜砂名

序章

彼女らとの出会いから物語は始まるらしい

 桜舞い散る、学校へと続くストリート。何だかつい最近見たような光景だと頭によぎるものの、すでにあれから一年が経とうとしていることに驚きは隠せない。


 ピンクの花吹雪、チラリと目をやれば、昨年同じクラスだった二人の男女が仲良く歩いている。様子から察するに、……ああ、オメデタイね。胸にチクリと刺す嫉妬心という痛み、だけどすぐに「まあいいか……」なんて流せるようになった自分こそに危機感を覚えつつ、俺は新たな一歩を進むために歩みは止めない。


 なんせ今日から新学期、らくよう高校の二年生としての生活が始まる日なのだ。


 おっと、申し遅れたな。俺の名は神宮寺善慈じんぐうじぜんじ、誕生日は2月5日の16歳。身長は同年代の平均と比べ数センチばかり上だが、取り立てて自慢するほどでもない。体型もしかり。顔は……どうだろうか? 自分では悪くないとは思っているが、結果は残せていない以上、何を言われたところでしょうがない。


 とまあ俺のプロフィールはこの程度にして、再び学校へと続く一本道に目をやる。


 同性の友達同士でもそうだし、異性同士でもそうだし、楽しそうに登校している連中がわんさかいる。ああ、やはりこれが「青春」というものなのだろうか? 


 自分で言うのもアレだが、俺は地味な人間だと思う。それは決して友達がいない、いつでも孤立しているような人間を意味してはいない。かといって教室の中央で目立つ存在でもないが。要はどっち付かずの地味な男なのだ。中途半端って言葉がお似合いだね。ただまあ、好んでこの立場に甘んじているのは事実。抜け出せなくなるくらいに心地よい場所なのだ。


 ただ振り返ってみれば、自分にとっての「青春」というものが何なのかは未だに知らん。目立たないという学園生活を送ってきた以上、青春の味は分からない。現在学校内での人間関係を正そうという部活動に入っているのも、ひょっとしたら代わり映えのない学園生活を変えたいがための行動なのだろうか? まあ、自分でも分からん以上誰に訊いたところでね。


 男女が甘酸っぱい日々を過ごすことが青春なのか? それとも、例えば中学時代の俺のように、ダイヤモンドの中央で駆け引きに身を投じていたことも青春なのか? 


 やっぱり考えても分からん。


 別に探さなくても生きることに支障ないと分かりつつ、この学園生活で「何も見つけられない」=「残念極まりない人生」という、誰が定義したか分からない苦しみに自然と悩まされるのだろう。まったく、マジ面倒だ。


 だけど。



 ――――黒川くろかわ紅涼こすずに出会えたことが、そして黒川紅涼と過ごした一週間が、ひょっとしたら俺の「青春」への一歩になったのかもしれない。

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