第8話 筋肉の宴 01
貴族の依頼も終わって落ち着いた頃、遂に待ち望んだ客が現れた。
「おーい、ツェート。リナって人がツェートを呼んでるぞ。」
その呼び声に電光石火で反応する。
「ほう、オレに用事か。ようやくオレの時代が来たようだな。」
今までの長きに渡る苦渋の日々、ようやく報われる時が来たというものだ。
「そういうの良いから。外に来てくれだってさ。」
「っふ、相手を待たせるなど紳士にあらず、行ってくる!」
話を聞くとすぐに走り出す。
後ろでワドが何か言ってたようだが、レディを待たせる訳にはいかないのだ。
「オレをお呼びの淑女が居ると聞いたが…、何処だ?」
外に出るがそれらしい人間が見当たらない。「おう!」
通りを歩く女性は居るが、立ち止まりもしないから関係無いだろう。「久しぶりだな!」
険しい顔つきで辺りを見回す。「聞いてるのか?!」
何故か関係無い人間が大勢いるが、シザーの野郎、騙したんじゃなかろうか。
「おい!!!」
突然耳元で怒声が鳴り響いた。
余りの大きさに耳を押さえていると、屈強な男がオレを睨んでいた。
「何をする!!」
男の周りには数人の筋肉ダルマが居る。
コイツらのせいでさっきから視界が狭まっていたのだ。
「ずっと呼んでるのに無視するからだろう!!まぁ良い!ギルドへ行くぞ!!」
オレの腕を掴んで無理矢理引っ張って行こうとする。
気づかないフリをしていれば去ってくれるかと思ったが、うまくいかなかったようだ。
「オレはリナって方に呼ばれてるんだ!勝手に行ってろ!!」
何故リナ嬢は居ないんだ。この筋肉ダルマ達を怖がっているんじゃ無いだろうか。
「リナは儂だから問題無い!!さぁ!出発だ!!」
この筋肉ダルマ、とんでも無い事を言い出しやがった。
その顔でリナは無いだろう。確実に詐欺だぞ。
オレを呼ぶ乙女が居なかったという事実に落胆し、抵抗する気も起きずに引きづられていく。
「よく来たな!ツェート!以前話していた『筋肉の宴』を開催するぞ!!」
突然目の前に現れたギルドマスターに叫ばれる。
余りのショックにいつの間にかギルドに運ばれていたようだ。
「宴だ!!」「筋肉万歳!!!」「鋼の肉体に栄光あれ!!!!」
マスターの声に呼応して次々と叫び出す。
宴って前に言ってたやつの事だろうか?
「うるさいわ!!宴ってもう準備は終わってるのか?全く話を聞かないぞ?」
どれ位の規模かは知らんが、マスターが主催するなら噂になってもおかしく無い筈だ。
開催するとか言ってるがいつの間に手回しを済ませていたのだろうか。
「うむ!!良い所に気がついた!!準備はこれからだ!!!!!」
このゴリラ…、大声を出せば済むと思ってるのじゃ無いだろうか。
「じゃあ準備が出来たら知らせてくれ!宴なら少しは楽しみにしてるz「待て!!!」」
そのまま帰ろうとした所、マスターが大声で引き留めて来た。
他の筋肉ダルマ達も周りを囲んでくる。
「依頼だ!!ツェート個人への指名依頼だ!!リナ達と協力して宴を開催せよ!!!」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
さっきからずっと怒号が飛び交っている。
苦情とか来ないんだろうか…。
勝手に巻き込まれていく状況につい現実逃避をしてしまう。
「ツェートは強い女を求めていると言っていたな!協力してくれるなら儂の娘を紹介するぞ!」
リナが大声で話す。
この筋肉の娘となると不安だが…、マスターの娘は受付嬢を任される程の才媛だ。
「美人なのか?」
「勿論だ!!この街でもトップに入る程美しいぞ!!」
イマイチ信用しきれんが、最近は女性と縁が無さすぎて心配になっていた。
ここは賭けに出るべきかもしれん…。
「分かった!協力してやろう!!」
まだ見ぬ美女を求めての冒険。
まるで勇者の物語じゃ無いか。周りの人間に目を瞑れば完璧だ!
「ツェートには主要な筋肉達に声をかけて欲しい!細かい手続きは私達の方でしておく!」
(主要な筋肉達って何だよ…)
マスターの発言に早速辞退したくなったが、美女の為と思い何とか我慢した。
依頼を正式に受注した後はギルドを離れ、早速行動を開始する。
交渉相手のリストも渡されたので順番に回っていくつもりだが、一番最初に寄る所がある。
「……と、言う事でタシラーにも協力を依頼したい。リナという魅力的な方からの依頼だ。協力してくれれば何かお願いも聞いてくれるかもしれんな。」
「このタシラーを頼った慧眼、流石は我がライバル!勿論協力しよう!」
タシラーにも協力を依頼する。
本当はシザーにも声をかけたかったが、今回は厳しそうだと諦めた。
「流石は『麗しの
早速釣れた相手に優しく声をかける。
ここで逃せばオレの苦労は倍になる。絶対に見逃しはしない。
タシラーの協力を得たオレは早速1人目に声をかけに行った。
「ドーズ!『筋肉の宴』に招待したい!!」
「筋肉の!宴だと!?面白い!!」
言いながら上着を脱ぎ出す。
相変わらずの筋肉で、腕の太さなんて丸太くらい有りそうだ。
「では、参加という事で良いな。」
手早く確認してすぐに去らなければ。
急ぐオレをタシラーは不思議そうに見ている。
「うむ!!熱き名だ!!体が火照って来たぞ!!」
男に言われても全く嬉しくない台詞を言われる。
マズいと思うが、既に腕を掴まれてしまった。
「付き合え!
思った通りの展開になってしまった。
脳筋達を誘いに行けばこうなると思っていた。
ドーズは何とかやり過ごせるかと思っていたが、祭りの名前に
「タシラー!やるぞ!!」
とてもじゃないがやる気満々のS級を1人で相手になんてしたく無い。
ただでさえ、これから地獄の勧誘が待っているのだ。
「ちょっと待ち給え!ツェート!話が違うぞ!」
慌てた様子でタシラーが吠える。
「何も違わない!オレ達はただ誘うだけだ!!」
結果的に無理矢理手合わせをすることになるだけだ。
今回は筋トレする訳でも無いし、タシラーも良い経験になるだろう。
叫びながらも相手をいなすタシラーと協力し、何とかドーズの相手をこなした。
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