第7話 貴族からの依頼 04

「ここかぁ!」


叫び声と共に扉が吹き飛ぶ。

目を向けると先ほどの閣下が憤怒ふんぬ形相ぎょうそうで立っていた。

暗黒の甲冑をと豪華な剣と盾をつけている。ゲインと同じような格好だ。

体から溢れ出る黒いモヤが無ければ漆黒の騎士にも見えたかもしれない。


「ゲイン!共にアイツを滅ぼそうぞ!!」


どうやら理性が無くなりゲインを眷属にするつもりのようだ。

黒いモヤでゲインを包み込もうとする。


「ハァッ!」


そうはさせまいとゲインが闇を切り裂く。


「ッグ!ゲインーー!」


閣下にもダメージが入ったようで、怒った様子でゲインに斬りかかる。

正に神速というほどで、目で追うのがやっとだった。

ゲインは余裕を持って反応しており、盾で見事に防ぐ。


その後は剣戟の応酬が始まった。

お互いの盾を叩き割ろうと痛恨の一撃を放ったかと思うと、目で追えない程の踏み込みで相手の隙を狙う。

お互いに手の内を知り尽くしているようで一進一退が続く。


(このままだとマズいな…。)


徐々に閣下の方が優勢になっていく。

瘴気を取り込みパワーアップした閣下を前に徐々にゲインが押されている。


(ゲイン…!)


飛び出したい気持ちを何とか抑える。

補助魔法が弱まる度に掛け直しているが、相手の力が強くすぐに効果が切れる。


「ゲイン!我が忠臣よ!共に行こうぞ!!」


閣下が剣に瘴気を集める。

どうやら勝負に出るようだ。

ゲインも盾を構えて防御態勢を取る。


ゲインの聖盾は度重なる猛撃を受けて見事な装飾が見る影も無い。

付与魔法も消えかけ、聖なる力も失われていっている。


「ゲインがそちらに行くにはまだ早い!」


叫びながらゲインの盾に光の加護を集める。

伝説の勇者を思い浮かべ、盾の中に圧倒的な光の渦を顕現させる。


「うおおおおおお!」

「はああああああ!」

「ッグオオオオオ!!」


3者3様の叫び声を上げ、力を絞り出す。

光と闇がぶつかり、その衝撃に力を使い果たしたオレは吹き飛ばされてしまった。


「…ッグ!」


閣下が立ち上がり、倒れているゲインを見下ろす。


「まさか…、防ぐとはな…。」


呟くと同時に剣が崩れていく。


「見事だ。やはり、お主は私には過ぎたる臣よ。」


「いえ、仲間の助けが有ってようやくです。遂に閣下には勝てぬままでした…。」


閣下の言葉にゲインが顔を上げる。

聖盾は真ん中に穴が開き徐々に崩れている。


けいも見事だった。まさかあのまばゆき光をまた見れるとはな…。」


閣下がこちらを見てくるので何とか手を上げて返す。

立ち上がる事も出来ずみっともない格好だが仕方あるまい。


「ゲインよ。お主はこの闇に沈んではならんぞ。醜い主からの最後の命令だ。」


閣下の指先が段々と崩れていく。どうやら終わりの時が来たようだ。


「閣下!貴方に導いて頂いた事、決して忘れません!」


慟哭のような叫びを上げ、ゲインが涙を流す。

2人の周囲には淡い光が次々と浮かび、憎しみの連鎖が一つずつ断ち切られていく。


「ああ…。暖かい光だ…。最後まで世話になったな…。ね…が、わ…く……ば…。」


最後に何か呟き、穏やかな顔で消えていった。

ゲインは聞き取れたみたいで雄叫びを上げている。



「ツェート、立てるか?」


ゲインが立ち上がり、こちらに手を伸ばしてくる。


「1人じゃ無理そうだ。」


その手を握り何とか起き上がる。


「最後の浄化、感謝するよ。」


余計なお世話かとも思ったが、やって正解だったみたいだ。


「あの御仁を地獄に落とさせる訳にはいくまい。」


聖なる光によって浄化されればアンデット化した後にも救いは有ると言われている。

本当のことは知らないが、安らかに逝けたならやった甲斐は有っただろう。


ゲインも余り余裕は無いようで、2人で肩を組みながらヨロヨロと歩く。


「あのゲインがここまでやられるとはな…。」


冒険者から『不動』の二つ名で呼ばれるゲインの今の姿を見たら街の連中は腰を抜かすだろう。


「不甲斐ないばかりだ。これからはオレもマスター達の訓練に参加するとしよう。」


笑いながらゲインが言ってくる。


「ハハッ。それは良い。オレ1人だとあの筋肉オーラにやられそうでな。そろそろ味方が欲しかったんだ。」


同じようにオレも笑う。

依頼前の訓練では村長も加わってよりカオスさが増していた。

『筋肉の宴』なるものを開こうとし、街中に触れ回ろうとしたのだ。


「宴か…私1人じゃ厳しいかもしれないな…。」


急に真剣な顔で考えこむ。

そこは「任せておけ!」くらいには言って欲しかったんだが…。

この先の将来に不安を抱いていると、遠くから仲間の声が聞こえて来た。


「ゲイン!!ツェート!!!」

「生きてるなら返事しなさーーい!!」

「こんな所でくたばるなんて絶対に許さないぞ!!早く出てこーい!!」


ドーズ、ワド、シザーの3人が叫びながら近づいてくる。

よく見ると周囲の壁は吹き飛び、天井も所々が落ちて来ている。


「急ぐぞ!」

「ああ!」


ゲインの言葉に勢いよく頷き、慌てて3人の元へと向かう。

皆も気付いたようで手を振って来ている。


ここまで苦戦したのは久しぶりだと思いながらもゲインの助けになれた事を喜ぶ。

これで少しは借りも返せただろう。

いつもより心地良い疲れに包まれながら、急いで屋敷から離れるのだった。

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