戦いの火蓋

第4話 魔弾の射手

 大会が始まって今日で四日目。

 俺は順当に勝ちあがり準々決勝へ。圭吾も春人もトーナメント表を見る限りでは残っている。決着の日は近い。


『さあ、皆様スクリーンをご覧ください! 本日の第一試合は大川桃莉おおかわとうり選手と雉岡宗きじおかそう選手の対決です。それでは両者に入場頂きましょう!』


 そのアナウンスが流れるとまぶたをゆっくりと開け息をく。黒スーツの係員にうながされてスタジアム内へ。

 ふと目をやると向正面むこうじょうめんには今回の対戦相手が既に待ち構えていた。



ROUND1

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大川桃莉  |||||||

雉岡宗   |||||||

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『さあ試合開始だ! それと同時に後方へと飛び退いていったのは雉岡選手! 解説の島さん、これは一体?』

『魔銃使いの彼の戦い方はまさしくヒットアンドアウェイのそれ。よって対戦相手が彼を捉えきれない場合は、長時間に渡り苦しい戦いを強いられるのは必至でしょう』

『なるほど。対する大川選手は間合いの狭い刀使い、開幕時点の相性としては雉岡選手が有利となりそうです』


 これまでにないタイプの変則的な相手だ。ひとまずはどんな攻撃手段を持っているか見極めなければならない。

 まずは逃げていく相手にプレッシャーを掛けていく必要がある。


『さあ大川選手駆け出します!』

『武器間のレンジもありますし、みずからペースを作りにいくのでしょうね』


「ふふふ、無駄だよ! だって僕には一切近づく事はできないからねぇ?」

 開口一番、雉岡と言う男は不敵にそう笑った。

 いまだ組み合ってもいない相手にそこまで言うものか。いや、ただのブラフか?

 だが曲がりなりにもここまで勝ちあがってきた相手。彼がよほどの実力者なのか単なる賑やかしなのか。それも含めて見定めてみる事にしよう。


『これは雉岡選手のファーストアタックとなりそうだ!』

『大川選手が遠距離攻撃をどのように対処するのか、ここは早くもポイントとなりそうです』


 未知の攻撃には間違いないが、過剰に反応し相手に怯んだところを見せるのは悪手そのもの。

 この戦いでは体への実害はない。しかしながら、これまでの戦いでダメージを受ける機会は一度としてなかった。ただあの説明通りに体力だけを削られるだけならば、そこまでさして問題にはならないはずだ。

 前方から飛来してきたそれらに相対あいたいすると腰を落とす。


『おおっと! 放たれた弾丸を大川選手……これは? 何となんと弾いています!? 場内のボルテージはぐんぐんと上がっていく!』

『見事ですね。卓越した技量と、それを支える研ぎ澄まされた集中力が垣間見えるようです』

『さあここから両者、どういった動きを見せていくのか期待が高まります!』


「へえ、やるじゃん君~!」

「…………」

「ねえねえ、僕を無視するつもり? もしかして聞こえてないのかな~、おーい無口君? この雉岡宗が話し掛けているんだよ?」

 段々と後者の匂いが強くなってきたな。


『手をとめ足をとめ、両者は睨みあっている模様!』

『うーん、何か会話をしているようにも見えなくはないですね』

『確かに! ただ、そうこうしている間にも時間は刻々と過ぎていくぞっ!』


 不利にはなるがあえて下がってみるか。果たして何を撃ちこんでくる?


『おおっとぉ! 大川選手、何故かここで後退!? 島さん、これをどう見ますか?』

『判断が難しいですね。彼には何か狙いがあるのでしょうか? しかし、個人的には一気に攻めていけば良かったのではと思います』


「あれあれー。もしかして怖気おじけづいちゃった? あーあ、いいのかなぁ。その距離、貰っちゃうよぉ?」

 言うと恍惚こうこつとした表情を浮かべているようにも見える。この辺りが雉岡ヤツの得意な間合いか。


『大川選手。ここで刀から手を離し、右手で雉岡選手を挑発するような動きを見せる!』


「ふぅん。君はこのラウンドで終わらせて欲しいんだね? この僕を馬鹿にするな……望み通りにしてあげるよ!」

 どうやら雉岡は乗ってきたようだ。しかしこの物量を捌き切るのは容易ではないだろう。


『大川選手をとめどない攻撃が襲う!』

『これは被弾を免れられないでしょうね』


 さすがに対処が間に合わない。それでもある程度は弾く事はできる。この降りしきる銃弾の中で研ぎ澄まされた聴覚は何かを捉えた。

「桃莉、負けないで!」

 瞬間大きく視界が広がるのを感じた。

 その声はそうであって欲しいただの願望に違いない。この歓声の中だ、ましてやそれを確かめるすべを持ち合わせてはいない。それでも間違いなく背は押され足が進んだ。


『大川選手。積もりゆくダメージはなんのその、この雨をくぐり、抜けて……いくっ! その歩みはとどまる事を知らないとでも言うのか!』


 最後の確認事項、最接近。仮にこれを正面から受けて体力は持つのか持たないのか。ここは賭けだ。


「へぇー……。あれを耐えちゃうんだ。すごいねぇ、素晴らしいねぇ」

 焦りからだろうか、相手の言葉数は明らかに減っている。すかさず余裕の表情を彼に差し向けた。

「チッ、馬鹿にしやがって……!」

 雉岡は激昂げっこうしているように俺を睨みつけた。


『大川選手、ようやく自分の間合いに入ったか! だが対する雉岡選手も手を緩める様子はないぞっ!』

『刀が届くか銃が貫くか、勝負の時ですね』


「大川、これで終わりなんだよっ!」

 必死の形相の雉岡は銃を構えている。直後それが放たれると弾いた手応えは感じられなかった。


『直撃! 雉岡選手の一撃は刀をすり抜けて大川選手にヒット! ものすごい威力で体力が減っていきました! それと同時にラウンド1がここで終了を迎えますっ』



ROUND2

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大川桃莉  ||

雉岡宗   |||||||

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『さあ、ラウンド2ですが……これは完全に雉岡選手の優勢と言ってもいいでしょう!』

『大川選手にとっては、ひたすら前に出ていくしかなくなりましたね』


 これ以上ダメージを受けられなくなったな。

 だが一つ確信ができた。


「君、よくあれで生き残ったねぇ。まあ生命力だけは認めるよ?」

 雉岡は口調からすると優位による落ち着きを取り戻したか。


『さあ、追い詰められた大川選手……んんっ、またもや後退の姿勢!? そして――挑発の構え!』


 「またそれかい? はぁ、君は学習能力がないみたいだねぇ。ここで……散るといいよっ!」


 雉岡の二度目となる大技。

 ――無我の境地。まるで豪雨のようなそれを斬りわけていく。


『先ほどと似たような展開! このままいくと勝負がついてしまうぞ!』

『いえ。よく見てくださいあれを!』

『おーっとぉ! 何故か攻撃しているはずの雉岡選手の体力が減っていくぅ!?』


「チッ、やるじゃないか。弾丸を斬り返すなんて小癪こしゃくな真似を! だったらさぁ!」

 ここしかない、決めてしまおう。


『雉岡選手、今度は近接戦闘インファイトを仕掛けるつもりだ! 武器を構え自ら飛び込んでいくっ!』

『先の攻撃が有効でしたからね。これは良い判断だと思いますよ』

『さあ大川選手は……何と――いない、大川選手の姿が消えました!』



「どこを見ている?」

「なっ……!?」

「忠告だ。戦闘中は静かにしていろ」


 ――――ぜつ


『おおっと! 試合終了のブザーが鳴り響く!? 勝ったのは……大川選手、大川選手です! 一体何が起こったのでしょう!』

『これはリプレイが必要になりそうですね』

『それでは会場の皆様にも向けて、超スローリプレイをご覧に入れましょう。その姿を消した後、雉岡選手の背後から現れた大川選手。ここで初めて刀を抜きました』


『そして一撃の元に断ち切り、すぐさま刀をさやに戻しています。この間コンマ数秒といったところでしょうか。それにしても体力僅かからの大逆転劇。会場が大いに湧いております! 大川選手、本当に本当に素晴らしい勝利でした――』

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