異世界鉄道おまけ 152年春のリチャード家 第6話 4月21日(夜) 舞踏会の出席状況

 舞踏会か。

 正直言って気が重い。


 僕は舞踏会に参加する事に何もメリットを感じない。

 強いて言えばカールやキット、あとクレアさん等の知り合いと会ったり近況がわかったりする位だろう。


 業務上の親交関係なんて作るには適した場所ではない。

 特に鉄道だの通信だのは政治絡みが多くなるからこそ、こういった場で話を出すのは避けたい。


 そもそも舞踏会のような場にいる事そのものが僕を消耗させる。

 賑やかだったり人が多かったりする場所が嫌いだから。


 しかし舞踏会出席は一応貴族の義務。

 そして欠席しにくい状況である以上仕方ない。

 ドナドナ気分で王都屋敷からゴーレム車に乗車。


 とりあえず最初はローラと3曲踊って、あとは何処かに隠れていよう。

 そんな雑な作戦をたてつつ王宮へ向かう。


 予定時間通りに王宮へと到着。

 開始時間までは自席で周囲の皆さんと挨拶その他していればいい。


 この時間帯にテーブルを越えてやってくる者はまずいない。

 そして同じテーブルなのは北部の領主家の皆さん。

 この辺は顔なじみだし領内にはひととおり鉄道が開通済み。

 だから無茶を言われる心配は少ない。


 さて、ウィラード伯爵家・・・は、シックルード伯爵家とほぼ同じ序列。

 だからほぼ同時に会場入りするのだがキットの姿はない。

 なので挨拶の後、クレアさんに聞いてみる。


「キットさんは領地ですか?」


「ええ。ローロライダ第三期開発や通信取引管理システムの構築、北方内陸4部族との通商協定締結準備等、まだまだ動いているプロジェクトがありますから。あの人が統括しているのといないのとでは動きが全然違うんです」


 何というか容赦なく動いているなと思う。

 実際ここ数年のウィラード領の発展状況はとんでもないとしか言いようがない。


 鉄道が通る前のちょっと古い資料にはウィラード領、人口3万人、標準総税収額正金貨1万1千枚55億円となっていた。

 それが昨年末の速報値では人口13万8千人、総税収正金貨12万枚600億円


 結果、今年4月に昇爵、伯爵家になった訳だ。

 序列は子爵最高位だった24位と変わらないけれど。


 さて、モーファット家やハンティントン家、マルケット家。更には続いてやってくるバーリガー家等、他の家にも挨拶。

 一通り挨拶した頃、スティルマン家の皆さんがやってきた。


 スティルマン家はチャールズ・スティルマン伯に奥様のマチルダさん、次男のエドワルド氏と奥様のシェリルさん、そしてジェームス氏の奥様のコリンヌさん。


 ジェームス氏は領主代行の仕事が忙しいらしく来ていない。まあ領主代行は半分以上が不参加のようなので、珍しい事ではないけれど。


 なおスティルマン家は長男のレナルド君の高等教育学校卒業を目安に代替わりする予定だそうだ。

 予定通りならあと3年先となる。


 さて、ローチルド辺境伯家がやってきた。

 こちらはローチルド伯と夫人の2名だけだ。

 カールの魔力もアンブロシア領主代行のものも見当たらない。

 仕事で領内にとどまっているのだろう。

 

 無茶苦茶忙しい事はわかっている。

 実はこの2月にカールと会って話したばかりだ。


 ◇◇◇


 元々の目的は鉱山までの軽便鉄道を体験する事だった。

 勿論往復乗車しただけでなく整備工場だのまでしっかり見学して楽しませて貰った。

 その時に雑談がてら新たな事業の話を聞いたのだ。


「そろそろ農業生産の拡大に本格的に取り組む事になる。何せ農業従事人口が最盛期の2割しかいない。これでは食糧自給なんて到底無理だ。

 領内の農家の体質改善はほぼ終わった。しかしこれだけでは領内自給率はせいぜい5割程度までだろう」


 そうなると普通、使われる手は一つだ。


「農地を開拓して移住者を募るか?」


「無理だろう。何処の領地もそうやって人を求めている。そして此処はゼメリング領時代の悪評がまだまだ残っている。採算があわないくらいの好条件をつけないと人は集まらない」


 なかなか厳しい分析だと僕は思う。

 でもおそらく事実だろう。


「ならどうするんだ?」


「農民1人で数人分以上の生産が出来るようにするしかない。足りない労働力は専用設計したゴーレムで補う。耕作地もゴーレムを使用して効率よく作業が出来るよう、平坦かつ真四角でだだっ広いものを整備する。


 更に集約性をある程度放棄する。土地使用効率は悪くても広さでカバーするという発想だ。1人で従来の20人分の農地を管理し、6人分くらいの収穫を得る。

 そういうコンセプトの新しい農業をするつもりだ」


 なるほど、地球のアメリカ等でやっている大規模な粗放農業と同じか。


「よくもまあそんな方法論を考えつくな」


「考えたのは義父おやじだ。そういう計画を出した上で俺に必要なゴーレムは製造出来るか聞いてきた。勿論それくらいは可能だ。あとは2人で一晩話し合って形を作った。イザベラは呆れて途中で寝たが」


 これは義父と息子の仲がいいと言っていいのだろうか。

 僕にはよくわからないけれど。


「ただこれをやると、当分俺は身動きがとれなくなる。

 義父の代わりになる農業技術者は何とか確保した。しかしゴーレム製造に長けている俺の代役はまだ確保出来ていない。更に造船や冶金なんて方も面倒みなければならないし、第三騎士団関係もある。


 イザベラはイザベラで事務仕事を抱えている。人事関係は全部イザベラに投げたからな。代わりにイザベラがやっていた王都での政治・外交関係は義父に投げた。


 でもまあ、これで普通の領主家と同じような業務形態にはなった。領主は王都で政治と外交、領主代行が内政という形に。

 ただちょっと業務が多すぎて洒落にならん。本当は趣味かつ実用で作りたいものがあるのに当分は無理そうだ」


 ◇◇◇


 きっとあの時の言葉のまま、カールやアンブロシア領主代行は多忙な日々をディルツァイトで送っているのだろう。

 そんな事を思いつつ、僕は会場内を見回す。


 まもなく王族の皆さんが反対側の入口から入ってくる。

 そうすれば面倒くさい舞踏会の開会だ。

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