異世界鉄道おまけ 152年春のリチャード家 第5話 4月21日 価値が不明なプラチナチケット

 王都バンドン中央セントラル駅からは迎えに来ていた実家のゴーレム車でシックルード家の王都屋敷へ。

 到着してすぐ昨今の情勢や今日の舞踏会の注意点についての会議だ。


 参加者は我が家の舞踏会出席者全員、具体的には

  ○ ウィリアム兄、セリーナさん夫妻(領主、同夫人)

  ○ ヘンリー兄、リリアさん夫妻(領主代行、同夫人)

  ○ 僕とローラ

  ○ 父

の7名。


 まずはウィリアム兄が口を開く。


「国の情勢そのものは穏やかだね。四大公爵も代わってまだ3年だから無茶しないし、陛下や殿下による改革も国政レベルの方は昨年6月で一段落したからさ。


 派閥についても今はあまり気にしなくていい。何処の領主も内政に必死で結びつきが薄くなっているからさ。だから政治的な問題は基本的に無いといっていいかな」


 ウィリアム兄、今ではシックルード伯爵として基本的に王都に常駐している。

 実は相当動き回っているようだけれど、何故かその辺の情報はどのルートからもほとんど入ってこない。

 何処でどういう風に暗躍しているか、気にすると精神的に疲れそうだ。

 だから僕はつとめて気にしない事にしている。

 

「領地の方は順調。とりあえず今回の舞踏会で他領地と問題になるような事はない。

 強いて言えば鉄や石灰石を直接回してくれと言う話が出るかもしれない。国内のほとんどで需要が供給を上回っている状態だ。だがその辺は全部市場を通す事としているのでゼロ回答になる」


 ヘンリー兄は現在、領主代行兼森林公社・石灰石公社長を務めている。

 ウィリアム兄が領主代行をしていた頃と比べると施策の派手さは無いが、堅実かつ着実に領内を発展させている。


 あと此処にはいないがジェフリーが今は鉄鉱山と製鉄場の総公社長をやっている。

 以前のダメダメさが嘘のようにしっかりとやっているようだ。

 何せ僕は以前の公社長、情報はいくらでも耳に入る。


 さて、僕の番だ。


「僕はあくまで民間の一商会長です。だから舞踏会で貴族関係にどうこうするという事は一切しませんし、しないつもりです。


 ただ明日、国王庁王都バンドン交通局長との会合があります。王都バンドンの第二次鉄道整備についてですが、本日の段階ではまだ決定案がどうなるか、僕自身知りません。また第三次以降の整備案についても僕の方に決定権がある訳ではありません。

 ですので言及することはありませんし、出来ない状態です。


 またそれ以外にも鉄道関係については一切、舞踏会の席上では言及しない方針です。王都その他の契約済みの業務だけで手一杯なのが現状ですから」


 王都バンドンには現在、

  ○ 南北線

    ダラム~王都中央バンドン・セントラル~ベアトリカ

    半腕1mゲージ、複線、幹線級

    ダラムで北部大洋鉄道商会線、ベアトリカで南部縦貫鉄道商会本線(ダルホーク方面)と接続

  ○ 路面鉄道線

    ハスヌト~王都中央バンドン・セントラル~クラナシ

    半腕1mゲージ、複線、路面鉄道規格

の2路線が開業している。

 また王都バンドン・中央セントラル駅付近の整備事業も実施中だ。


 ここに新たに

  ○ 西線

    王都中央バンドン・セントラル~リドラム

    4半3腕1.5mゲージ、複線、幹線級

    リドラムで南部縦貫鉄道商会南部西岸線(スコネヴァー領方面)と接続

  ○ 路面鉄道支線

    既存の路線から分岐して、

     ・ エイダン港へ向かう支線

     ・ ナンシャまで向かう支線

    いずれも単線で既存の路面鉄道から乗り入れ

を建設しようというのが第二次鉄道整備。


 実は明日の会議を待たずして決定しているようなものだ。

 しかしそれを僕の口から言う訳にはいかない。

 ましてやまだ策定途中の第三次、第四次については口に出せない状態だ。


「まあ鉄道の事はそうだろうけれどさ。でも例のプラチナチケットは持ってきてくれているんだろ?」


「一応20枚準備しています。そちらはローラ任せです」


 ウィリアム兄言うところのプラチナチケットとは、会員制サロン『ウェヌスの鏡』の特別招待券の事である。

 この『ウェヌスの鏡』とはエステサロンとトレーニングジムと温泉、喫茶室が一体化した施設。

 ヒルデ課長が(勝手に)作った女子商会員用厚生施設に感銘を受けたローラの発案で、観光推進部が作ってしまったものである。


 僕はよくわからないのだがこの施設、貴族女性の皆様に人気の施設となっているらしい。

 ただ人気が高すぎてなかなか予約が取れない。

 随時施設を増強しているにも関わらず。


 この特別招待券はその『ウェヌスの鏡』の全施設に優先予約を入れられるというものだ。

 ローラ曰く『貴族の奥様達相手には一撃必殺の威力がある』代物らしい。


 そういった辺りの機微とか、そもそも貴族外交なんてものについては、僕は正直よくわからない。

 だからもう、全面的にローラにお任せだ。


「ローラさんが持っているなら問題はないね。一番効果的に使ってくれると思うしさ」


 効果的に使うか、うーん。

 僕にはどう使うのか、そもそもあの特別招待券がどれくらいの効果があるのか、全くもってわからない。

 ただ

  ① ローラが必要だと言った場合に、

  ② 観光推進部と相談してぎりぎり問題ない範囲で発行して貰い、

  ③ 1枚あたり正銀貨1枚1万円で購入してくる

だけだ。


 そう、僕の入手価格は1枚正銀貨1枚1万円

 何せ基本的には優先予約を入れることが出来るだけのもので、料金が無料になる訳ではないのだから。

 観光推進部と直取引出来る範囲の人しか手に入れられないけれど。


「ただあのチケット、来月あたりまた別に2枚、発行して貰えないかな。外交に使う訳じゃない。セリーナやリリアさんがまた使いたいみたいだからね」


「そうですね。また3人で一緒に行きたいですから。リチャード、どうでしょうか?」


 僕にとってローラのお願いというのは、レジーナのお願い以上に断りにくい代物だったりする。

 ただ無責任に安請け合いをする訳にはいかない。

 観光推進部と相談して発券出来る余裕があるか確かめる必要があるから。


「帰ったら観光推進部と相談してみます。発券したばかりで今すぐには無理でしょう。しかしある程度の空きが見込める期間を確保次第、何とかします」


「すみません、よろしくお願いします」


 セリーナさんとリリアさんに頭を下げられてしまった。

 仕方ない、これは帰ってからの宿題としておこう。

 

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