おまけのお話・特典用近況ノートで書いたもの・時間経過による転載分

於田縫紀

異世界鉄道用 第12話続き 台車の話

領主館じっかから帰り、さっと軽く夕食を食べた後。


「今日はもう休む」


 そう宣言して自室へ。

 風呂は今日はいいだろう。

 昨日入ったから問題無い。


 そもそもヲタクは風呂に入らずとも生きていける。

 それにこの国では毎日風呂に入るという習慣はない。

 学校にいた頃は寮の体制上、風呂は週に2回だけだったし。


 なおすぐに自室に向かったのは寝るためでは無い。

 やらなければならない事があるからだ。


 明日、鉱山の幹部会議で貴族令嬢の見学者が来ることを周知しなければならない。

 その周知する時の口上文というか台詞を考えるのがやることその1。


 元々僕は口が上手い方ではない。

 むしろ無口な方だ。

 興味があることを同志に話すなら何時間でも問題無い。

 しかしそれ以外となると途端に口が動かなくなる。

 だから例文を作って覚えておく必要があるのだ。


 とにかく簡潔に必要な事だけまとめておこう。


 紙に何があるのかを書き出し、その中で伝達するべき最小限の事だけを選ぶ。

 会議の席上だし、まだ詳細事項が決まっている訳でも無いのだから。


 5W1Hを意識して文章をまとめる。

 いや、今回は5W1H全部は必要ないか。

 いつ、誰が、何を伝えれば事が足りる。

 ついでに何故こうなったのかも……


 半時間30分位文章を練って、ようやくまとまった。


「昨日、シックルード伯から連絡があった。7月25日から8月5日の間、スティルマン伯爵家をはじめとする御令嬢方が5名、領内に滞在される。その際に当鉱山の新しい運送施設を是非見てみたいとのことだ。

 これを受け、7月10日にシックルード伯とウィリアム領主代行が下見に来る。だから皆、本業が忙しいと思うが協力してほしい」


 こんなところだな。


 さて、もうひとつやるべき事がある。

 森林鉄道試作品の規格の概要決定だ。


 今回の見学会や下見は鉄道をアピールするいい機会。

 だから父らの下見までにある程度本格的な鉄道の見本を作っておきたい。

 名目は森林鉄道、しかし出来れば今後の鉄道のベースになるような規格で。

 領内だけでなく他領主の領地の街までを結ぶ都市間鉄道としても発展できるように。


 ある程度は以前カールと話して概要が出来ている。

 レールの軌間が半腕1mだとか、レールはケーブルカーで使用した30kg/mのもので行くとか。

 しかし機関車や客車、貨車についてはまだ話していない。


 一応カールは独自に機関車を作り始めている。

 しかし鉄道車両は車両なりのノウハウがあるのだ。

 たとえば連結器の形式とか、台車の構造とか。


 現在、鉱山のトロッコでは古典的な朝顔型連結器を使っている。

 これは牽引用ゴーレム以外が車両を増結・解放する事がないからだ。

 必要がなければ誰の目でも構造がわかる簡単なものの方がいい。


 しかしこの連結器では将来的な不安がある。

 自動で増結や解放が出来ないから。

 森林鉄道では最低でもジャニー式自動連結器にしておきたい。


 あとは台車だ。

 鉱山トロッコくらいの大きさなら2軸固定でも問題無い。

 しかしある程度の大きさがある車両ならボギー車にする必要がある。

 更に客車を作るなら振動緩衝装置も必要だろう。


 ならTR246台車なんてどうだろうか。

 構造がシンプルで性能も悪くない。


 幸いこの国にはゴムはある。

 ゴーレム車のタイヤすら空気入りゴムタイヤになっている位だ。


 しかし素材の性能が信用できるかは正直自信が無い。

 最初はやはり基本的なところから行くべきだろう。

 いきなりボルスタレスというのはやり過ぎだ。


 となるとイコライザ式あたりか。

 いや、貨車も共通にしてもっとシンプルかつわかりやすくいこう。


 となるとベッテンドルフ台車あたりかな、最適なのは。

 見た目にわかりやすいし整備性も悪くない筈だ。

 乗り心地はまあ、頑張ろうという事で。

 

 あと車体の大きさは……


 夜が更けていく。


※ TR246

  元祖走ルンですこと209系用に開発された付随台車(電動車用はDT61)。

  なお走ルンですとは209系が『重量半分・価格半分・寿命半分』で作られ安っぽく、使い捨てを連想させる事から、当時流行っていた『写ルンです』という使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)にたとえてつけられた呼称である。

 なお209系の設計を基本としたJR東日本の一連の新系列通勤電車(231系、501系、531系、233系……)も同様に走ルンですと呼ばれる。

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