様子がおかしい庄司さん

熊パンダ

様子がおかしい庄司さん

「あまりこっちに寄らないでください。不快です」


 放課後の誰もいない廊下、夕陽が差し込むムードあるこの場で、辛辣な言葉が聞こえてきたのは俺の気のせいだろうか。


 残念ながら気のせいではない。


 と言うか何回目だろうか、この辛辣な言葉は……何回か彼女の手伝いをしてるのにずっと刺々しい。


「えっと……庄司さん、違うんだったら悪いけど、もしかして俺のこと、嫌いかな?」


「……はぁ。手伝うんだったら手を動かしてくれませんか?」


 庄司はクラス分のノートを仕分けながら変わらないジトッとした目でこちらを見上げてくる。


 はぁ……やっぱり俺、嫌われてるよな……



 その日、俺は寝れずにいた。

 高校に入学してもう2ヶ月。

 クラスでも色んなグループが出来上がっている。

 そんな中、俺は高校デビューと言うものをなんとか成功させ、クラスの人は全員仲良くなっていた。

 そう、……


 彼女だけなのだ。

 庄司しょうじはな

 学級委員であり、成績優秀……特待生の彼女である。


 最初はまだマシだった。

 丁寧な受け答えで、クラスのみんな平等に仲が良かった。

 いつからだろう、俺への態度が変わったのは。

 言葉は辛辣になり目を合わせても何考えているかわからないまるで選別するかのような目。


「ま……明日も頑張るしかないか、よし、英単語50個覚えてもう寝よう」


 次の日、異変は起きた。


「おはよ! 佐藤!」

「おう、おはよう! 山田!」


 いつも通りクラスの人達に声をかけていき、席に座る。

 挨拶は大事だ。


「おはよ、庄司さん」

「……おはようございます」


 !?!?!?!?!?


 俺は何が起こったのか理解できなかった。

 挨拶をした!? あの庄司が!?


 いつもなら「話しかけないでくれますか?」としか言わないが……


「……あの、ジロジロ見ないでくれますか?」


 そこには頬を赤く染めた庄司がいた。


「え……あ、ご、ごめん」


 つい吃ってしまう。


 え、これはなんだ?

 ドッキリか?


 庄司さんが……見たことない表情してる!?


 落ち着け、落ち着け……きっと時間が経てばいつも通りになるはず。


キーンコーンカーンコーン


 1限目が終わり、廊下に出ていった庄司さんの背後へ


「わぁ!」


 普通ならここでキレ気味になるはず!

「きゃあ!」


 え?


「山田くん……」


 庄司さんは顔を真っ赤にしてこちらをプルプルと見上げている。

 身長の低さもあってか、こんな様子を見ていると小学生な感じ……と、これを本人に言ったらガチでキレるな。


 いや、それよりこの状況だ……。

 一体何が――


「もう……ばーか……」


 そのままスタスタと歩いて行ってしまった。


ドクン……ドクン……


 ……


 正体不明のこの痛み。

 これは俺が庄司さんを構う一つの理由である。

 いつも庄司さんの手伝いをしてたのはこの胸の痛みが庄司さんといると1番痛かったから。

 知りたい。


 でもなんだろう……いつもよりも痛い。

 今まで見たことがない庄司さんの表情を見ると……余計心臓が痛くなる。



 昼休み。

 まだ庄司さんはおかしい。

 なんか、それを見てると胸がザワザワしてくる……。

 とりあえず、昼ごはんを誘ってみることにした。


「えっと、庄司さん。暇かな?」


「はい。大丈夫ですよ。なにか?」


 一見変わりないように見える。

 でもいつもなら「話しかけないでください。不快です」とか言われてるはず……やっぱりおかしい。


「お昼ご飯一緒に食べようかなと思って」


「えっ……」


 硬直。

 でも少し考えて、


「い、いいですよ……」


 やはり彼女の顔が赤い。

 そして俺の胸も痛い。


 どうしてだろう……またも疑問が現れる。

 そして同時に視線も感じる……周りを見るとクラスの人達が普通に過ごしながらこちらの様子もちらちらと伺っているようだ。


 そりゃそうだろう。

 俺らの仲の悪さはみんな知っているはずだからな……


「ここじゃ食べにくいな、食堂行くか」


「はい……」


 お互いそこからは黙って、食堂へと向かった。

 ただただ気まずくて、無言だったけど何故か、2人で歩くのが楽しかった。


「わぁ、庄司さんの弁当思ったよりも可愛いね!」


 食堂に着き、お弁当を広げる。

 それは心から思ったことだった。

 ウインナーはタコさん型に切られ、小さく丸い海苔が2つ付いており目の役割をしている。

 ご飯も白米をただ敷き詰めるのではなく、くまさん型に入っており、でかく丸い海苔が2つ、これも目だ。


「恥ずかしいですけど、ありがとうございます。結構こだわりなんです」


 いつもは見ない柔らかい笑顔。

 そんな様子を見てぎこちなくなり、沈黙が訪れる


「……」

「……」


 黙々と食べ続ける。



「……えと、庄司さんさ、なんかあった? 何か辛いことがあれば相談に乗るけど……」


 ご飯を食べ終え、気になっていることを聞いた。

 普通に気になる。

 今日、庄司さんの様子がおかしいのは明白。

 理由があるはずだ。


「……えないです」


「ん?」


「言えないです! すいません!」


「ちょっと待て、庄司さん!」


 走り去って行ってしまった。


 ワンテンポ遅れてお弁当を2人分持ち、追うが、見失ってしまう。

 教室に戻ってもいない。

 廊下にもいない。

 食堂にまた戻ってると思い戻ったが、そこにもいない。


 普段は使わない校舎の廊下に……彼女はいた。


「どうしたの……探したよ?」


 庄司さんは黙って蹲っている。


「ちょ、やっぱり体調悪いんじゃ――」


「わからないの……」


「……?」


 わからない? 俺もこの状況がわからない。


「山田くんとどう接したらいいのかって……」


 顔を上げた庄司さんは目が真っ赤になってポロポロ泣いていた。


「え、ちょ、え!? よくわからないけどす、すまん、俺のせいで!」


「元凶は山田くんですよ! 胸が痛いから近づかないようにしてたのに……なのに、なのに山田くんは学級委員の仕事手伝って……私に近づいてきて……うぅ……」


 胸が痛い……庄司さんもそうだったのか!


「本を読んでもわからなくて……昨日お母さんに聞いたら恋だって言うから……!」


 恋……


「流石に違うと思ったよ……でも、昨日の夜、考えてみたの。山田くんのこと好きだって……そしたら胸が苦しくなって……切なくなって! 気づいちゃったのよ……私は山田くんのこと好きなんだって……うぅ……」


 いつもの敬語が抜けている……こんな弱った庄司さんは初めて見る。


「いざ今日山田くんに会ってみたらなんて言っていいかわからないし! ……顔見ると余計意識しちゃうし!」


 あの赤面はそう言う意味か……


 意味がわかって……胸が熱くなった。

 胸が痛い……心拍数が上がってる。


 流石にもう理由はわかる……やっぱり俺も……


「山田くんは山田くんで心配してくるし――えっ?」


 思わず抱きついた。

 多分俺の中の……が爆発したんだ。


「急にごめん……でも言っとかなきゃなって……」


 泣いているからか彼女はとても暖かい。

 庄司さんの心臓の音も……聞こえる気がする。


 今なら全てわかる。

 今の俺のこの気持ちも、俺が庄司さんの仕事を手伝ってたのも、なんでここまで彼女のことが気になっていたかも全部……全部。


「俺は庄司さんのことが好きだ! 付き合ってくれ!」


「えっ……ええ、え?」


 庄司さんは混乱している。

 泣き止み、真っ赤な顔と目でこちらを見てる。


「今なんて言――」


「俺は庄司さんが好きだ! 何度でも言ってやる!」


 やっとわかったこの気持ちを噛み締めて、俺は何度でも伝える。


「えっ……わ、私も……私も! 山田くんが好き! 大好き!」


 ここが旧校舎でよかったと本当に思う。

 そのくらい声を出して、告白しあってた。

 そして、お互い初めてキスをした。


 ……そのあとはまともに顔も見れなかった。



 教室に帰ったのは午後1の授業が終わった後……つまり俺たちは2人でサボった。


 まぁ……無言で抱き合ってただけだけど……


 教室に入ったら何事もなかったように、普通にしようと事前に打ち合わせている。

 ……大丈夫だ。 誰もあの告白は聞いてないし。


ガラガラガラ


 扉を引くと


「「「おめでとう!!!」」」


 クラスメイト全員がこちらを見て言葉を揃える。


「は?」

「え?」


「やっとかよお前ら、おせーよ」


「どう言うことだ?」


「俺ら全員、お前らが相思相愛だって気づいてずっと見守ってたんだよ!」

「ほんとほんと、先生への言い訳も大変だったんだからな」


 サボった授業のことだろうか。


「あわわわ……」


 庄司さんは隣でバグってる……


「なぜ付き合ったってわかる?」

 

「そりゃ2人で昼休み抜けて2人とも帰ってこなかったら……もうそう言うことだろ」

「あとその顔よ……なによ、2人してその幸せそうな顔ー!」


 この日はクラスメイトにニヤニヤした顔を1日中された。





「今週末空いてるかな? 庄司さん」


 俺たちは帰り道を一緒に歩いていた。


「……名前で呼ばないと、別れますよ?」


 不意打ちだった。

 真面目な庄司さんからは考えられないちょいあざといウインク。


「じゃあいいよ、別れよう」


 反撃……をしようと思ったのだが


「え……」


 ポロポロと静かに涙を流している。


「ちょちょちょ! 嘘だからごめんて!」


「むー」


 頬を膨らまして怒っている……また、初めて見る表情だ。


「……花」


「……許します」


「……で、空いてるの空いてないの?」


「空いてますよ、デートしますか?」


 そう言った花の笑顔は明るい。


「お、おう」

 思わず圧倒。


 これからも彼女の色んな表情を見るのが楽しみだ。


「もっとこっち寄ってくださいよ……」


「はいはい……」

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