詩片

王滝 木経

案山子

何もできずに

立ち尽くしていた

日は高く上り

多くの人が忙しく働く中で

僕だけが取り残されていた

何をするでもなく

何をしていいのかもわからず

ただ立ち尽くす


道行く人に声をかけられる

お休みですか? と

「いいえ、とても忙しいんです

僕は、探しているんです」

「でもずーっと止まっているじゃないですか」

「人を待っているんです」

「あら、それはいけない」

「何故ですか?」

「この先からはもう誰も来ませんよ、私が最後ですから」

では、と会釈をするとその人は去っていった


僕は立ち尽くしていた

誰も来ない道の真ん中で

ただ一人立ち尽くしていた


やがて日が暮れると

空には輝く星々が姿を現した

その中から仲間外れにされた

弱々しい光が空から落ちてきた

目の前に落ちてきたソレを拾ってみると

なんとも気味が悪い色をしていた

まるで今の自分のようだと思い

遠くへ放り投げた


ソレは落ちた先で動かず

ただ座り込んでいた


僕は立ち尽くしていた

満点の星空の下

キラキラと輝く光の下で

立ち尽くしていた


やがて空が白く色を変えると

夜が明けた


視界の端で座り込んでいたソレは

蒸発するように姿を消した


死んだのだ

跡形もなく消え去ったソレを

僕は羨ましく思った


ただ立ち尽くすしかなかった

どこまでも続く道の先に

人影は今日も見えず


自分を迎えにくる人は

もういないことを理解した

また日が暮れる

僕はただ立ち尽くしていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る