第27話 お前らはつええ!


 差し出された腕章を受け取ったモエギは、自分の腕に通して姿勢を決めた。


 スミレ、生徒会長。そして副会長が、祝福とばかりにモエギに拍手を贈っている。


 そんな中、まるで死屍累々のように、クチナシも稗島ザクロも膝を付いてしまっていた。


 二対一という完全に有利な状況で、相手に一撃も与えられなかったのだ。こうなってしまっても、おかしくないとは誰もが思うだろう。


「……ザクロ」


 そんな弟の様子に気づいたのか、副会長が稗島ザクロの元へと近寄った。


「すみません……兄さん、一度ならぬ二度までも」


 首を垂らしたまま謝罪の言葉を述べる稗島ザクロだったが、兄である副会長は首を左右に振った。


「そんなことよりも、気になることがあって……」


 副会長の台詞に稗島ザクロが、肩をビクリと揺らした。


 恐らく副会長は、八百長について言及するつもりなのだろう。モエギが黙って副会長の肩を叩いた。


「なあに?」


「コイツが……ザク郎が副会長にこだわるのは、やっぱりシヅカさんの影響?」


 稗島シヅカこと副会長が首を捻った。どうやら兄も、その理由を知らないようだった。


「ま、いっか。……おいザク郎!」


 モエギの台詞に稗島ザクロは、再び肩を震わせた。


「あと、クチナシ! お前らも生徒会、入ってくれ!」


 名指しされたクチナシも、稗島ザクロと一緒に顔を上げた。


「はぁ⁉ 何言ってんだよアンデッド! たった今、オレらの生徒会役員入り潰したのオメエだろ!」


「まだ残っている役員があるだろ!」


 モエギの台詞にスミレがキョトンとして、クチナシと稗島ザクロも似たような表情を浮かべた。


「……会計と書記か」


 生徒会長の台詞を耳にして、モエギの言う残っている役員が判明した。


 書記と会計の候補を決める闘いは、二人組で行うものである。そして未だに現役員は倒されておらず、候補の座は決まっていない。


「お前らはつええ! この俺を追い詰める程度にはつええ!」


 まるで褒めているとは思えない発言を轟かせた後、モエギは親指を自分を向けた。


「んなもんだから、もし副会長になった俺が、暴走した時に止められる奴が欲しい!」


 そして二本指を立てて、クチナシと稗島ザクロを指差した。


「それが出来るのは、お前らだけだ」


 物凄い一方的な意見に言葉も出なかったのか、クチナシも稗島ザクロも表情を変えずに唖然としていた。


「……スミレくんじゃ駄目なの?」


「スミレじゃ駄目です!」


 副会長の問いにモエギが即答したものだから、スミレは固まってしまった。


「俺のゼロに対抗できるのは、こいつらだけです! 今日は勝ちましたが、次やって勝てるか怪しいですからね!」


 モエギの演説が終わって、暫く生徒会室に静寂が訪れた。生徒会長とクチナシと稗島ザクロは真顔で、副会長はクスクス笑っていた。


 スミレはどういう表情をしていいのか分からなかったようで、張りつけたような苦笑いを浮かべていた。


「……お前は、本当に……はぁ」


 やがてクチナシが諦めたかのように、溜息をついた。


「……やってみたら、ザクロ?」


 副会長の声掛けに、稗島ザクロは戸惑った表情を見せた。再びこっちへと視線を向けられたので、モエギは敢えて満面の笑みを作った。稗島ザクロは、大きく息を吸った。


「……分かりました。借りは返します」


 さりげなく不正判明から話を逸らしてあげたのに、本人が蒸し返してどうするんだ。モエギは思ったが、副会長の様子を見るに、もう言及は無いようだった。


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