紋章争奪能力戦挑戦者、フェレットアウト。

直行

プロローグ

第0話 曾田司一郎vs大友悠


 中庭に立っているのは黒髪の少年と、桜と金の髪色の少年だった。黒髪の大友悠には蹄鉄のような、桜と金の曾田司一郎には視力検査のような紋様が首に浮かんでいる。


 すぐに挑戦状を出せる立場であったにも関わらず、大友悠は中一日開けてからの試合に臨んだ。これは本人の実直な性格の表れであり、互いが万全である状態が真価を発揮する、という考えの下での行動だ。


「あのさ……馬鹿くん」


「なんや、われぇ⁉」


 お互い拳を向けながら、何やら二人はやり取りをしていた。


「ネンジくんの戦い、真似出来ると思わないでね」


 煽るような台詞に聞こえ、頭に来たのだろう。まるで殴るかのように、大友悠は曾田司一郎の拳を叩いた。


 そして鐘が響き、試合は開始。なんと開始直後にも関わらず、すぐに曾田司一郎は複製を作り出した。


 最初に攻撃に入ったのも曾田司一郎で、複製と一緒に大友悠の腹に蹴りを入れた。


 これを難なく防いだ大友悠は、分身の方の足首をガッシリ掴んでいた。


「させないよ」


 足首を握った大友悠の手首を掴むと、そのまま曾田司一郎は体重を掛ける。


 片腕が重みに引っ張られ、体勢の崩れた大友悠。そこに曾田司一郎は、長い足を曲げて肩に膝蹴りを入れた。


 近接戦は危険だと見做したのか、大友悠は転がりながら、二人の曾田司一郎から距離を取った。


 肉体強化や硬質化でも、武器は己の肉体である。つまり複製を生み出そうとも、攻防は肉弾戦だ。距離を取ったところで、互いに遠くからの攻撃手段なんてものは無い。


 そこで大友悠は、分身の方に狙いを定めたように蹴りを放った。


 やはり曾田司一郎は、大友悠の動きを読んでいたようだった。彼の分身能力は自在に出せる上に、いつでも消去が可能なのだ。


 複製消去完了。


 蹴りを喰らわせた筈の分身は消えていて、大技で姿勢の崩れた大友悠は踊るように転倒。


 何が起こったのか理解していないのか、かなり気圧されていた。もちろん曾田司一郎も、そこを見逃さなかった。


 既に間合いに入っていた曾田司一郎は、屈んだ体勢の大友悠へと長い足を伸ばし、飛び掛かるように頭に靴を乗せた。


 曾田司一郎が体重を掛けた瞬間、大友悠は首を回すように横に曲げた。大友悠の後頭部に乗っていた踵は地面へ突き刺さり、勢いのあまり曾田司一郎は倒れそうになる。


 そのまま倒れても、大友悠に乗りかかる形にはなる。窮地は脱出していない状況に思えたが、なんと大友悠は既に首を引っ込めていた。


 膝から落ちた曾田司一郎が、地面に手をついた時。驚くことに大友悠は、既に立ち上がっていた。同じ技を警戒したのだろう。


 慌てて曾田司一郎は、自分の顔面の前に緩衝材として拳を置いた。一連の動きを見た者は、ここが勝負の分かれ目だと感じた。


 相手に倒れ込むように身体を預けた大友悠は、全体重を掛けて肘を背中に叩きこんだ。


「ぐぁぁっ⁉」


 曾田司一郎の悲鳴は、大きな硝子の割れるような音に掻き消された。


 首にあった紋様は消え、大友悠の勝利は確定した。にも関わらず、いまだに勘違いしているようだった。大友悠は曾田司一郎の背中を抑えると、大声で三秒を要求してきた。


「カウントぉぉお!」


「カウントじゃねえよ、馬鹿!」


 中庭に響き渡った台詞は、全観客が放った突っ込みであった。


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