番外編 第11話 震度6なのー!?


『うみゃー! まじでうみゃーなの! もうミルクは要らないのー!』


 鍋の煮える微かな音をかき消すように、客間にはお猫様の声が響いていた。本当にミルク要らないんですか? あの、僕の生活費じゃお猫様を満足させるご飯を用意出来ないんですけど……。


「本当に猫ちゃんの声が聞こえます。信じられません……」


 母さんは自身に起きた超常現象に驚いていた。普通に考えて、猫が肉球をポンッてするだけで声が聞こえるようになるなんて有り得ないよね。


「猫ちゃんこれ美味しいね~。もっと食べる?」


 椎名さんはもうお猫様の声が聞こえる事を受け入れたのか、食事を楽しみながらお猫様へお肉を提供していた。よく見ると5:1くらいの割合で自分が多く食べています。椎名さん素敵です。


『もう食べられないの~。ポンポンいっぱいで大変なの~』


 お猫様が座布団の上で仰向けに寝転がり、両手両足をだらりと弛緩させている。顔は目を細めてニコニコの笑顔になっているので、きっと満足して頂けたのだろう……。


 母さんもそんなお猫様を見て微笑んでいた。





 食事が終わり、食休めのお茶を飲みながら今後の事を考えていた。僕だけでなく、椎名さんや母さんがお猫様の言葉を聞けるようになったのは大きいと思っている。助言を聞いて貰えるし、最初の母さんの提案だって受けることが出来る。お猫様と離れるのは寂しいけど、東京の実家なら美味しいご飯もたくさん食べさせて貰えるだろう。


「この神様の事なんだけど、僕が知っている事を伝えておくね」


 僕がそう言うと、椎名さんと母さんが僕の方を向いて真剣な顔になった。う、見られると緊張してしまう。


「まず神様に確認したから間違いないと思うけど、……その、この神様はオシッコもウンチもしません。ましてや抜け毛が1本も無いんです」


「春希くん、食事が終わったからってそういう事を言っていると、椎名さんに嫌われちゃいますよ?」


「うっ……」


 僕は食後だったら良いかなって思ったけど、どうやら女性から見るとNGだったようです。チラッと椎名さんを見て見ると、クスクスと笑っていた。大丈夫かな?


「でも春希くんの言う通り、まったく服に毛が付いていません」


「私の服にも付いてませんね……」


 椎名さんがブラウスを触りながらお猫様の毛を探している。ブラウスを引っ張っているためだろうか、大きなお胸が協調されて大変な事になっている! やばい、椎名さんの大きなお胸に目が言ってしまう!! ずっとガン見していたからだろうか、足を蹴られてしまった。


「いたっ」


 足を蹴られた方を向くと、母さんが睨んできた。


「春希くん、ダメです」


「はい……」


 母さんがさり気なく教えてくれた。椎名さんのお胸が危険なので、話題を変えようと思う。


「椎名さんが神様の言葉を聞けるようになったのも、母さんと同じような感じですか?」


「うん……。急に猫ちゃんが私の手に猫パンチしてきて、そうしたら猫ちゃんの言葉が分かるようになったの」


「母さんと同じですね……」


 そもそも、何でお猫様は椎名さんに言葉が聞こえるようにしたのだろうか? そして僕は猫パンチされてないのに言葉が聞こえた。謎は深まるばかりである。もうこうなったら本人? に聞いてみるしかないな。


 座布団の上で気持ち良さそうに寝転がっている神様に聞いてみた。


「神様神様、どうして椎名さんを神様の言葉が通じるようにしたんですか?」


『うにゃん?』


 ダメだ、半分夢の中にいるようだ。しょうがない、ちょっと強引だけど起きて貰おう。座布団を揺すって起きるのを待とうと思う。


「神様起きて下さい~。椎名さんに猫パンチした理由を教えて下さい~」


『震度6にゃん!? ……なんだ下僕か……なの。……椎名っちは可哀想な匂いがしたの。だからボクの加護をあげたの』


「私は可哀想な匂いがするんですか……?」


 椎名さんが自分の腕をクンカクンカしている。ぼ、僕もクンカクンカして確認させて頂いても宜しいでしょうか!?


「可哀想な匂いがする椎名さんに猫ちゃんの加護を与えるとどうなるんですか?」


 母さんが気になった事を聞いてくれた。僕も集中して話を聞かなければ!!


『僕は幸運を司る猫神なの。ボクの加護を与えたからもう悲しい事は起こらないの!』


「私はもう、不幸にならないって事ですか……?」


 椎名さんが驚いた表情でお猫様を見つめていた。


『そうなの。椎名っちは不幸を寄せやすい体質匂いだったの。きっと思い当たる節があるはずなの』


「……物心ついた時から不幸だと思っていました。私の両親はどこの誰かも分からず、施設を転々としながら生きてきました。必死に勉強して奨学金を借りて何とか大学へ進む事が出来ましたが、この2年で2度のアパート火災に巻き込まれました……」


「椎名さん……」


 椎名さんは目に涙を浮かべ、震える声で自分の過去を告白してくれた。母さんが椎名さんをそっと抱きしめてあげていた。そして僕は、どうして良いのか分からずにお猫様の頭をナデナデしていたのだった。


『でも注意が必要なの。今のボクは力を吸い取られている状態だから、春希下僕の近くに居ないと効果が出ないの。それもこれも全部、こいつの父親のせいなの!!』


 その発言を聞き、僕と母さんは固まってしまったのだった。僕の父さんが原因ですか……?



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