第???話 エピローグ
年々、時間の経過するスピードが速くなっているように感じる。季節は大きく変わりそろそろ夏休みを迎えようという、とある週末の土曜日、僕たち黒川家一行は埼玉のキャンプ場に来ていた。お義父さんの仕事がひと段落した事により時間が作れたため、久しぶりに家族みんなで川遊びに来たのだ。東京から車で2時間も掛からない距離なので、日帰りでも十分に楽しめる。そう、僕はついに車を購入したのです!
有料だけどキャンプも楽しめる河川敷にタープを張り、日よけを作る。まだ真夏になっていないとは言え、直射日光を浴び続けるのは熱中症になってしまう。
僕とお義父さんの二人で頑張ってタープを張り終わった頃、遠くから小さな女の子が走って来た。葉月ちゃんをそのまま小さくしたような可愛い女の子だ。ニコニコの笑顔で手に白い花を持ち、嬉しそうにこっちへ向かって来る。
「パパ~! お花とったの~」
「綺麗なお花だね~」
僕が褒めて上げると、ニコニコの笑顔を向けてくれる。まさに大きなヒマワリのような満面の笑みだ。この笑顔を見るだけで僕は幸せになってしまう。
「
「え~? いいよ~」
お義父さんがデレデレになっている。そんな
「ぱぱー、きらきら~」
美姫ちゃんの後ろから、美姫ちゃんよりも更に小さな子が走って来る。本人は走っているつもりなのだろうが、小さな足ではスピードが全然出ていない。小さなお手々には、赤く光る綺麗な石が握られている。たまに河原に落ちているキラキラと光る石を見ると楽しいよね!
「キラキラ光って綺麗だね~」
やはり男の子だからだろうか、お花より河原に落ちているキラキラした石の方が嬉しいようです。僕も小さい頃、良く分からない硬貨を拾って大事に取っておいたのを思い出した。神様にはばっちぃって言われたけどね……。やはり僕の息子だな!!
「ゆきくん、あんまり走ると転んじゃうわよ~」
雪斗君の後を見守るようにお世話してくれているお義母さんには感謝しかありません。お義母さんは男の子が欲しかったとずっと言っていたので、孫である雪斗君の事を特に可愛がっている。雪斗君が産まれた時、お義母さんの雪子という名前から雪の字を受け継いでいるのです。それくらい喜んでくれていた。
お義母さんが雪斗君を抱きかかえ、ハンカチで汗を拭いてあげている。
「薫さん、みんなにジュースを配って下さい」
涼しい日陰で休んでいた僕の最愛の妻、葉月ちゃんが微笑みながらジュースを渡してくれた。葉月ちゃんは美姫ちゃんを妊娠してから髪をバッサリと切ってしまい、お義母さんより少し長いくらいのボブヘアーです。あれだけ長い髪だと、妊娠中のお手入れとか大変なので切ったそうです。最初はビックリしたけど、葉月ちゃんの可愛さは変わりませんでした!
「体調は大丈夫? 無理しちゃダメだからね」
「ふふ……大丈夫ですよ。ここは空気も美味しいので良い気分転換になります」
葉月ちゃんがお腹に手を当てながら微笑んでいる。そう、葉月ちゃんは妊娠中なのです! 安定期に入ったので気分転換を兼ねてリフレッシュに来ました。僕も3人の子供を持つ親になります。お義母さんが心配していた妊娠が難しい体質というのは遺伝しておらず、葉月ちゃんは至って健康体でした。まさに鑑定の通りだね。
葉月ちゃんの最初の妊娠が発覚してから5年、僕たち黒川家は平和に、そして幸せに暮らしているのだった。
◇
タープの下に折り畳みのテーブルを広げて、お弁当やジュースを頂きながら今までの事を思い出す。あっという間の5年だったが、今思うと色々な事があった。
葉月ちゃんの妊娠が分かった日、つまり僕たちの結婚記念日はお祭り騒ぎだった。妊娠の報告を聞いたお義母さんが興奮してしまい、お義父さんへ電話した。お義父さんは紫苑さんと一緒に天王寺の忘年会に参加していたらしいけど、その場で紫苑さんへ報告してしまったのだ。まだ検査薬で結果が出ただけなのに、もう孫が産まれたかのように嬉しそうに話していたらしい。
そして年末の家族旅行はキャンセルして、お正月もずっとお家で安静にしていたのだ。こんなに早く安静にする必要があるのだろうかと思ったが、妊娠初期の流産とかが懸念されるため、安全を取ったのだ。つまりクリスマスデートも無くなって、お家で家族みんなでケーキを食べて祝いました。
うちの実家には安定期に入ってから報告をしたけど、両親もすごく喜んでいてくれた。修二や玲子さんもお祝いしてくれて嬉しかった。
年が明けてから葉月ちゃんは学校へ行く回数を減らし、出来るだけ安静にするようになった。まあ3年生だし卒業するだけだから、ほとんど授業とかも無かったそうです。
そして占いの神様に助けられながら、無事に長女の美姫ちゃんが産まれた。お義母さんは勿論のこと、女の子という事で特にお義父さんは大喜びだったのだ。産まれて間もないのに、おもちゃとか沢山買ってました。
美姫という名前は、占いの神様が付けてくれたのだ。僕と葉月ちゃんが産まれて来る子の名前を悩んでいたところ、『姫という字を入れると良いでしょう』というお導きがあったのだ。そして僕の願い、葉月ちゃんみたいな可愛い女の子になって欲しいから美姫という名前にしたのだ。
初めての育児にアタフタしていたが、お義母さんが居てくれたので助かりました。僕はヘタレなのでオムツを取り替えたり買い出しをしたり、みんなの食事をサポートしたりと頑張りましたが、やっぱりお母さんである葉月ちゃんは大変そうでした。夜泣きからおっぱいをあげて、一晩中起きている事もあって辛そうな時もあったけど、あまり喧嘩せずに今日まで仲良く出来たのも神様のお陰だと思います。今日の運勢で的確なアドバイスがあったのです。『今日はいつも以上に率先して育児を行いましょう』とかね。
美姫ちゃんが順調に育ってきた頃、葉月ちゃんの第2子の妊娠が発覚したのだ。これもまた鑑定で早いうちから分かりました。この時も『元気な子が産まれるでしょう!』という表記だったので安心していましたが、本当に何事もなく無事産まれてくれました。
葉月ちゃん待望の男の子です。お義母さんも男の子が欲しかったらしく、強い要望で『雪』の字を合わせた雪斗になった。お義父さんと二人で考えてくれた名前を付けました。誰に似たのか元気に走り回るやんちゃな男の子です。
僕たちの結婚式は、葉月ちゃんの妊娠が続いたため、去年行った。婚約指輪と一緒に作った結婚指輪は、ずっと引き出しに入れたままになっていたのだ。結婚式は身内だけで行おうと考えていたのだけど、お義父さんの都合とかもあり盛大に行われた。やっぱり大企業のトップともなると大変なんだね……。
会場は紫苑さんが紹介してくれたのだけど、『今年は子作り禁止ですからね?』と強く言われてしまったのだ。実は前々から結婚式の準備は進めていたのだが、雪斗が産まれるため延期したのだった。葉月ちゃんの妊娠でしばらくお預けだったから、僕も盛り上がってしまったのです……。
お義母さんの実家からも大人数で来てくれて、僕たちは大勢の人から祝福されました。
そして結婚式も終わり、子作り解禁からハッスルしてしまい葉月ちゃんの妊娠が発覚したのです。もう男の子でも女の子でも良いので、元気な子が産まれて来て欲しいです。神様お願いします!!
「じーじ、お水バシャバシャして遊びたいの~」
「あそぶー」
「よ~し、ご飯食べたら川で遊ぼう!」
美姫ちゃんは
そんな子供たちを見ているだけで幸せになってしまう。ふと横を見れば、葉月ちゃんも微笑んでいた。付き合っていた頃の葉月ちゃんと違い、母性を感じる優しい笑みだった。
◇◇
午後になり日差しも強くなってきたが、子供たちは元気いっぱいに走り回っている。川の浅瀬で水に浸かりながら、石を拾ったり自由に楽しんでいる。僕も一緒に遊びながら監視しているけど、子供は目を離すと何をするか分からないから注意しないといけない。
水と戯れる子供たちを見ていたら、修二たちのことを思い出した。修二と玲子さんは、一昨年結婚したのだ。大学を卒業してすぐの結婚だった。僕たちより早く結婚式を挙げた二人は幸せそうで、葉月ちゃんと早く結婚式がしたいねって笑いあった記憶がある。そして修二達も子供が出来たのだ。男の子だったので、玲子さんが大喜びでした。
実は修二とは職場が一緒なのだ。天王寺のグループ本社にある人事部へコネ入社である。修二は分かるけど、僕はまったく天王寺と関係の無い人間だから最初は人事の人もビクビクしていたのを思い出した。紫苑さんからの推薦で入った僕は、最初は恐ろしい存在に思われていたようです。僕はこの目を使い、主に面接担当で働いているのだ。レベルアップした鑑定は、色々と知りたい事を教えてくれる頼りになる能力なのです。
天王寺と言えば、うちの兄貴も結婚しました。僕たちが婚姻届を提出した1年後、楓さんが高校を卒業したのと同時です。そして今は都内にマンションを借りて楓さんと美人秘書さんの3人で爛れた生活を送っているそうです。楓さんも美人秘書さんもそろそろ子どもが欲しいと言っていたから、兄貴が頑張る事でしょう!
子供たちをお義父さんとお義母さんに任せてタープで一休みです。キンキンに冷えたビールが飲みたいけど、帰りも運転するのでコーラで我慢です。川で冷やしたコーラも美味しいよね!
葉月ちゃんと二人で椅子に座って子供たちを眺めていると、自然と笑みがこぼれてしまう。隣を見ると、葉月ちゃんも笑っていた。
「どうしたの葉月ちゃん?」
「……薫さん、幸せです」
「うん。僕も幸せだよ」
自然と葉月ちゃんを見つめ、キスをしてしまった。周りに家族連れが何組かいるけど、タープのお陰でこちらは見えないはずだ。
「こんなに幸せで良いのかなって考えてしまうんです。素敵な旦那さんに可愛い子供たち、来年にはまた一人可愛い子供が増えます」
「僕も同じだよ。可愛いお嫁さんに可愛い子供たちに囲まれて、すごく幸せなんだ。お義父さんやお義母さんも良くしてくれている。きっとこれ以上の幸せは無いんじゃないかって思う」
「ふふ……私もです」
今度はさっきよりも長いキス、僕は葉月ちゃんが大好きなのでいつでもキスをしてしまうのです。でも、ずっとキスをしていたからだろうか、見つかってしまった。
「あ~!! パパとママがちゅーしてる~!!」
「ちゅ~!」
元気な子供たちが走って来る。僕たちは笑い合い、子供たちを抱きしめた。この宝物を、これからもずっと大事にしていきたいと、心から思ったのだ。
僕の目に宿った占いの神様は、僕や周りをこんなにも幸せにしてくれた。最初はしょぼい鑑定能力にガッカリした事もあったけど、今ではこの神様に感謝しかない。この力が無かったら、きっと彼女も出来ずに一人で寂しく生きていただろう。この力のお陰で今の幸せがあるのだ。
幸せに包まれながら、ふと思った。
ねぇ神様……本当にそれ、鑑定ですか?
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